ひとしきり笑ったあと、ラックが声を潜めた。とはいえシャルロットたちとの距離は近いので、盗み聞きをしようとすればできるし、そもそもミラがいるので隠し事自体が不可能だ。
だから、まぁ、ただの雰囲気作りだな。
「近衛騎士が二人も帰らなければ、さすがに城も放置はできないだろう。調査隊を派遣し、場合によっては追討の兵士を出すはずだ」
「調査隊はまだ分かるが、追討までするか?」
「国に恨みを持つであろう高位貴族の令嬢と、この国の貴族の血を引く近衛騎士だぞ? 敵国からすればいい宣伝材料になるだろう。侵略時の大義名分に使えるかもしれない。敵国にとって利用価値があるのだから、そちらの手に渡る前に排除しておきたいと考えても不思議じゃないだろ」
「……何というか、考えが黒いな親友」
「軍師と言ってくれ」
「はいはい、頼りになる軍師様だ」
まったく。コイツの方がよっぽど『悪役』に相応しいじゃねぇか。
悪役軍師様がいかにも悪役っぽい笑みを浮かべた。
「そこで、だ。俺たちは『魔物に襲われて死んだ』ということにする必要がある」
「つまり『貴族令嬢』であるシャルロットたちは死んだことにして、余計な捜索や追討が来ないようにしようと?」
「おう。ありきたりだが、だからこそ効果が高い」
「貴族としての身分を捨てることを嫌がりそうな子はいないが……。近衛騎士二人が魔物に襲われて、か? ちょっと無理があるんじゃないか?」
「大丈夫だ。魔物の森にはドラゴンがいるんだぜ?」
そう言ってラックが親指でシルシュを指差した。――なるほど。いくら近衛騎士とはいえドラゴンには勝てない。あとは魔の森の近くでシルシュにドラゴン形態になってもらい、爪の痕とかブレスの痕を残してもらえばいいと。
「そして偽装が終わったら俺たちは魔の森の中に入り、自給自足のできる態勢を整える」
「お前のことだから考えがあるんだろうが……わざわざ魔の森で暮らすのか? あの村で匿ってもらうとかはダメなのか?」
「ダメだな。万が一の時は村人に迷惑が掛かるし、俺たちがまだ生きていると密告される可能性がある。エリザベス様は未来の王妃として顔が知られているだろうし、そもそも彼女たちの髪色は金や銀で目立ちすぎる。あの村はもちろん、普通の町で暮らすのは難しいだろう」
エリザベス嬢の顔については庶民では知らないかもしれないが、領主とかなら気づいても不思議じゃないか。肖像画とかも販売されているらしいし。
見た目を変える魔導具もあるとは聞くが、持っていないのだからどうしようもない。