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第26話 異国の魔導書



「ほらネコ〜、魔導書ですよ〜」


 本を掲げたレイルース様が期待に目を輝かせてわたしを見ている。

 魔導書が届いたらしい。

 異国の魔導書、大変興味あります!


「ニャ〜ン」


 フレスのめくる図鑑を横から見ていたわたしは、いそいそと本の元へ向かった。

 レイルース様は本で呼び寄せたくせに、うずくまって「ダメだ、ダメだ……死ぬ」とかつぶやいている。

 今、死なれたら困ります。せめて魔導書を開いてから!


「ネコがかわい過ぎて死ぬ……。ニャ〜ンて、かわいいかわいいが過ぎる。かわいいがこっちに来る。攻めてくる」


「こんな状態の隊長に教わらなければならないフレスが気の毒になってきたよ。僕の弟子になった方がマシかもしれない」


「いや、オレ、従者見習いなんで……」


 死ぬ死ぬ病から立ち直ったレイルース様は、わたしを膝に乗せて魔導書を開いた。


 ”魔法は魔力を使います。

 魔力は体の中にあります。

 しっかり動かして使いこなせるようにしましょう。

 魔力を思うように導くことが魔導の一歩です。”


 あとは簡単な呪文しか書いてない。

 えっ? これだけ?

 魔法図は?

 呪文だけじゃなくて、その魔法の魔法図ないの?

 わたしの知らない魔法とかないんだけど。

生活魔法の簡単なものだけ。

 その国にしかない魔法なんかが見られるのではって期待していたのに!

 子ども向けってこと?


 レイルース様を見上げると、困惑した顔で見返された。


「ネコや、その顔はどういう……?」


「ニャァ」


「……初級の魔導書がお気に召さなかったようだな……」


 これ初級なのか。

 それじゃ仕方ない。

 膝の上から机に移って、窓の前に行ける棚に乗った。


「ああっ! ネコが行ってしまった……! 中級の、いや上級の魔導書を持って来なくては!」


「……わかった、隊長はあてにならない。僕がフレスに教えた方がいいね」


「エドモンドさん……なんか、すみません……」


 わたしはレイルース様にひょいと抱えられ、新しい執務室を後にした。

 連れて来られたのは、仮執務室だった部屋。元々はレイルース様の作業場所で、また作業場所に戻った部屋だ。


「上級で事足りるのか心配になってきたな……」


 ページをめくって見せてくれるけど、やっぱり魔法図はない模様。

 これが上級なの、かな……?


「ニャ〜ン?(魔法図はないのですか?)」


「何が言いたいのかはわからないけど、満足してないのはわかるぞ」


 レイルース様はパラパラとおざなりにめくっていた本を閉じて、椅子に座った。

 そして机の横に置いてあった箱から何かを取り出した。

 わたしよりも大きい木箱から線が出ており、大きめな本くらいの銀色の板に繋がっている。

 銀色の板には何やら図が描かれていた。


 これ!! 魔導具だ!!


「ニャ! ニャ!」


「そうか、これはお気に召したんだな。何が気に入ったのかわからないが、これは未完成品なんだ」


 魔法図が描かれてる。

 けど、だいぶ簡単な図だ。

 あ、未完成って言ってたから、これから足していくってことか。

 楽しみ!

 レイルース様はどんな魔導具を作るんだろう?


「くっ……。にごりなき目に胸が痛む……っ。私が作るのを待っているんだよな? すまぬ、ネコ。そんな期待したかわいい顔で見ても応えられないのだ……」


「ニャ?」


「私は魔法伯と言われるくらいには魔法が使えるのだが、魔導具に関してはさっぱりでな……」


 なんと。

 でも、普通はそうかもしれない。

 魔法は詠唱(人によっては無詠唱だけど)で使うけど、魔導具の魔法図はその詠唱の言葉を文字と式にして図に落とし込んだものだ。

 魔法の研究者か魔導具に関わる人くらいしか使わない。

 実は魔法図というのは杖で土などに書いても魔法として使えたりする。音を出せない場所などで有効なんだよね。

 そうだとしても、なかなか特殊な状況下でしか使う機会はない。

 断然、詠唱の方が早いもの。

 まぁ、わたしの結界魔法はさらに早い無詠唱で使えるのだけど。


「この板に書いてあるのは魔法図といってな、他の国の技術なんだぞ。魔法を図にしたものだ。それを道具に組み込んで魔導具にしていくんだが、なかなか文献が手に入りづらくてなぁ……。我流でやってはいるが、上手くいかないもんだな」


 えっ、この国には魔法図ないんだ?!

 そういえば、距離を測る魔導具に光魔石を使っていた。

 魔法図なしで魔導具を作るのもすごい技術な気がするけど、作れるものの幅は狭くなるんじゃないかな。


 わたしは改めてレイルース様が描いた魔法図を見た。

 触れたら動くという式だね。この魔銀板に触ると作動するみたい。

 手——じゃなくて前足を出して、触ってみる。

 さわりと魔力が動き、動いた気配があった。

 ——何も起こらない……?

 何が起こるはずだったんだろう。

 レイルース様の膝の上から机に移り、魔銀板から線で繋がった箱へ近づいた。

 上は開いていて、中には金属のボウルが入っていた。その中には玉が付いたバネ。

 ベルを逆さにしたような感じか。

 なるほど、鳴るんだね。——ちゃんと動けば。


 これ、魔法でやるなら、周りの鉢を震わすか、棒を押してやるかだよね。

 だから、動かすっていう式より震わすか押す式を足してやればいいんじゃないかな。風魔法の強いのを棒に当てれば動くと思う。


 風魔法のマークを前足で描くと、慌てたような声が聞こえた。


「ま、まて、ネコ。ちょっと待て。それ、風だな?」


 はっ。

 わたし、なんかやっちゃうところだった。

 危ない危ない。普通の猫から外れるところだったよ。


「ミュ(違います)」


「ネコ? 風のマークだったよな? この魔法図がわかったんだな? な?」


「シャッ!」


「……気のせい、か。そうだよなぁ。いくらネコが普通の猫じゃないっていっても、まさか魔法図がわかるわけないよな……」


 レイルース様は納得した模様。

 よかった。変に思われなくて……。

 それじゃなくても魔性の猫とか言われているのに、これ以上おかしな目で見られたくないもの。


「……風か。風の魔法で動かして鳴らせばいいのか……? よしやってみるか」


 レイルース様は魔銀に向かい、魔法式を描き加えていく。

 わたしはそのまん前で、できあがっていく魔法図を眺めた。







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