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第28話 察知ベル


「では、だんな様。少々失礼します」


 セバスさんが出入り口から出ていく。

 コーン。

 執務室の出入り口に設置された魔導具が、ベルを鳴らした。

 通ると鳴るベルということで『察知ベル』と名付けられたそれは、ちゃんと想定通りに動いている。


「エドモンド、兵舎で定時報告を聞いてきてもらえるか?」

「了解しました。行ってきます」


 コーン。


「だんな様、お茶をお持ちしました」


 コーン。


「ニャーン」


 ゴーン。


「ネコ! 扉が開いた隙をついてどこに行くんだ! まだ外はだめだぞ!」


「ニャニャッ!」


 違うの! 外に行きたいわけじゃなくて、ちょっと廊下とか歩いてきたかっただけなの!

 わたしがセバスさんの横を通り抜けて廊下へ行こうとすると、レイルース様がすごい速さで飛んできた。


「そんなもたもた逃げたってすぐ捕まるんだからな。部屋の中にいなさい。シモベの膝の上がいいんじゃないか?」


 コーンゴーンコーンコーン。

 出入り口の上を行き来したから、鐘が鳴りっぱなしになる。


「……だんな様、あのそれ、うるさいと思うです……」


 耳をふさいだフレスが眉を下げている。

 セバスさんも少々お怒り気味。


「その通りでございますよ」


「うむ……」


「ニャ」


 レイルース様もそう思っていたのだろう。

わたしが外に出ないようにしっかりと扉を閉めてから、出入り口に置かれた魔導具を持ち上げた。

 フレスは興味津々といった風に覗き込み、セバスさんもお茶の支度をしながら気にしている。


「見たことがない魔導具……。だんな様、この絵みたいなのはなん、ですか?」


「これは魔法図という、魔法を図に描いたものだ」


「魔法を図に——でございますか。魔法を目に見えるようにしたということでしょうか」


「そうだ。詠唱する言葉の意味を式にして配置し、図にしたものだな」


「おもしろいことを考える国があるものでございますね」


「……そうだな」


おもしろい……。


「魔石……魔石がないです」


 フレスはすぐにこの国の魔導具との違いに気付いた。


「生き物はみな魔力を持っているという話はしたな? その生き物の魔力が、この魔銀の板の魔法図で魔法に変わるんだ。だから通るものの魔力が魔石の代わりになる」


「魔石を使わないのですか」


 セバスさんも驚いている。

 そのくらい、この国では魔導具とは魔石ありきなのだろう。

 もちろんキンザーヌ大帝国の魔導具も、魔石を使うものもある。

 使われるのは無属性魔石だけど。

 純粋に魔力を使うだけなので、無属性でいいし、人が持つ魔力でもいい。魔導具の用途によって変わる感じ。


「魔石は使わない。魔力を感知した時にのみ、ベルが鳴る魔導具だからな。魔石を置いたら、魔石の魔力がなくなるまでずっとなり続けることになるのではないか」


「ニャー(そうなりますよー)」


「だんな様、それは素晴らしい発見なのではないですか?」


「いや、これは他国の魔導具の仕組みだ。貴重な資料を集めてなんとか再現している」


「それでも、すごいことでございます」


「すごいことですます! そのうちこの国でも作られますね!」


「そうだなぁ……。作るのに手がかかるから、この国の魔導具のように安価では作れないだろうな。まずはこの魔法図を理解できる魔法師や魔導具職人を育ててからだと、広まるまでは十年単位かかるだろう。気長に待っててくれ」


「あの、オレ、お手伝いします!」


「そうか。助かるぞ。——それなら、さっそくちょっと考えてくれるか」


レイルース様は魔導具を机に載せて、うーんとうなった。


「この魔導具は、ネコが通った時にだけ鳴るものにしたいんだ」


「ネコが通った時だけ……」


 ふとフレスは考え込んで、恐る恐るというように口を開いた。


「ネコが通る時、音が大きい気がするんですけど」


「——言われてみればそうかもしれない」


 レイルース様はわたしを抱えて魔導具の上に載せた。


 ゴーン。


 フレスが触る。


 コーン。


 セバスさんも触る。


 コーン。


 わたし載せられる。


 ゴーン。


「たしかに音が違うな」


「なんで音が違うんだろう……です」


「なんでだろうなぁ」


「ネコ様でしたら軽そうなので音も小さくなりそうなものですが」


「重さで鳴るならそうだよな。けどこれは魔力で……魔力……?」


 あ、これはいけないです。


「ニャ〜ン」


 すりすり。


「ネコ〜〜〜〜! かわいい! なんでそんなごまかすように、すりつけてくるんだかわいい! ごまかされないかわいいぞ!」


「ましょうの猫……」


「魔性でもニャ性でもなんでもいい。ネコならなんでもかわいい。至高の存在だ。なぁ、ネコ〜?」


「だんな様、お茶を飲んだらお仕事の続きを進めてくださいませ」


 なんとかごまかせたかな。

 別に魔物じゃないし魔力が多いのを隠さなくてもいいのかもしれないけど、なるべく変に思われたくないもんね。

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられてしまったけれども、わたしはレイルース様にすりすりゴロゴロして、必死に普通の猫を装ったのだった。








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