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第43話 念願の


 レイルース様の魔物討伐報奨金をふんだんに注ぎ込んだ学校は、あっという間に建った。

 お金があって職人をたくさん使えばこんなに早くできるのだ。


 一階建ての校舎は、玄関ホールと手洗い場、教室は三部屋あとは物置があるだけの簡単な建物。

 そしてそのすぐ近くに管理人用の宿舎が建つ予定。というか、学校が建ったら次にそこをやるらしいので、またあっという間に建つだろう。


 管理人は、領主城の兵士の中から夫婦や家族で住める者に、一年毎交代で詰めてもらうらしい。

 兵士がいるなら安心だ。

 養護院の庭から真新しい学校を眺めていると、声をかけられた。


「チカ、学校を見に行かないか?」


 振り返るとそこにいるのは氷の貴公子——という感じはあまりしない、エドモンドさんがいた。

 ほんのり笑みを浮かべていて、普通に王子様。薄青の瞳が溶けている。


 学校ができてうれしいのかな。パン工房の話の時もうれしそうだったし、レイルース様の手がけるものができていくのが、うれしいのかもしれない。

 いつもはエドモンドさん呆れてるもの。たまには尊敬したいよね。


「え、わたしが行ってもいいんですか?」

「ああ、もちろん。君が言ってくれたから進んだ計画だしね。今日は荷物が運び込まれているから、見学においでよ」


 入り口には揃いの服を着て槍を持った兵士が二人立っていた。

 入ってくる馬車の確認をしている。

 エドモンドさんの言葉通り、荷物を運び込む者たちが入れ替わり立ち替わり忙しない。

 明かりの魔導具、水の魔導具、机と椅子に棚。あとは細々とした文房具などなど。


「ああ、鉛筆が来ているよ。見てみる?」


 指差す先の小さめな箱の中は、茶色の木の棒が詰まっていた。


「これが鉛筆ですか……?」


 執務室に見本が来ていたけど、毛が汚れるし危ないからって近寄らせてもらえなかったのだ。

 別にここから見る限り汚れなさそうなんだけど。


「この木の中に、黒い書く部分が入っているんだよ」


 エドモンドさんはひとつ手に持ってペンのように掴んでみている。

 こちらに差し出されたので、わたしも持ってしげしげ眺めた。


「あっ、真ん中に黒い部分がありますね」


 細長い棒は外側が木で真ん中に黒いものが入っていた。黒鉛って言っていたっけ。


「ちょっと貸して」


 手渡すと、エドモンドさんはナイフを出すと器用に周りの木を削っていく。

 中の黒い部分も少し削って尖らせて、書くのによさそうな状態にした。

 近くの箱から木の部品のような筒状ものを出して、尖らせた鉛筆にかぶせる。


「こうやって保護筒というものをつけて持ち運ぶんだ」

「インクがいらないから持ち運びやすいですね」

「そうだよね。でも公文書には使えないから、子どもの練習と絵や図を描く用かな。僕も子どもの時は使っていたよ」


 この形になるまで昔は黒鉛に紐を巻きつけてつかってたらしいよとか、そんな話をエドモンドさんが教えてくれた。

 わたしはこの鉛筆というものを使ったことない。

 ここヴェルニア王国で作られたものなのかな。魔導具大国だし、手工業の技術は優れてるんだよね。


「これはチカにあげるよ」


 保護筒に入った茶色の棒を手渡された。

 削ってある、すぐにでも書けそうな鉛筆が中には入っている。


「えっ……でも」

「ああ、消しゴムもないとだめだよね。鉛筆はパンでも消せるけど、パンは食べる方がいいでしょ? 削るナイフもあげるから」

「な、なんでそんなに!」


 なんかレイルース様とやること似ていませんか?!

 エドモンドさんに悪い影響が出ています!


「学校のこと、言ってくれて本当によかったと思っているんだよ。養護院の子どもたちの役に立つし、町の子だって学びたい子はいるだろうし。表立ってお礼もできなかったから、大したことないもので悪いけどもらってくれる?」


そんな風に言われたら、受け取ってもいいのかもしれないって思ってしまう。


「ありがとうございます……」


 うれしい。鉛筆を使ってみたかったんだ。

 鉛筆と、クリーム色の消しゴムと、折りたたむと指くらいの大きさになる小さなナイフを受け取った。


 もらったものを大事にワンピースのかくしポケットへしまうと、エドモンドさんは満足そうにうなずいた。

 これがとても欲しかったのだ。それがなくて魔法図を描けずにいたのだから。


 わたしはとうとう念願の書くものを手に入れた。


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