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第44話 進化させられる魔導具


 今日はフレスと養護院へ。

 子どもたちとわちゃわちゃしたら、大急ぎでチカになる。

 出入り口近くの水場へ行き、かくしから鉛筆を取り出した。


 浄化の魔法図を描いてしまおう。

 描いておけば、魔力が込められた時に発動する。

 わたしがいなくても浄化される。


 最近は領主城で働く者が増えたのだ。

 養護院へのお使いは近いうちに側近の仕事ではなくなるような気がしている。

 そうなったら、わたしが養護院へ連れてきてもらえるかわからない。

 いつかわたしが来れなくなっても、子どもたちが健やかでいられるように、清潔にしておきたい場所には浄化の魔法を描いておきたい。


 ここには水を出す魔導具が設置されている。魔導具は魔銀を使用するわけで魔石投入口のふたはまさにおあつらえ向きだ。

 描きやすいし、魔石を補充する時に必ず手が触れて魔力がもらえる。

 知られづらいように、ふたを外して内側へ書き込むことにする。


 まずは鉛筆で浄化の魔法図を描き、その後にエドモンドさんにもらったナイフで薄く描いた。

 鉛筆じゃ消えちゃうから残してはおけないけど、下書きには便利だよ。

 魔銀は柔らかい素材だから描きやすい。本当は石筆がいいけど、贅沢は言わないよ。


 よし、描けた。

 魔法図を触ってみるとふわりとあたりが浄化された。

 厨房は魔導具が多いからどこか描きやすい場所に。

 子どもたちが寝る部屋は、明かりの魔導具のふたとかに描けるかな。

 わたしは頭の中で予定を立て、大急ぎで次々と魔法図を書き込んでいった。


 本当は洗濯物を入れて運ぶ桶にも軽く運べるような魔法をかけておいてあげたかったんだけど、魔導具じゃないから魔銀使わないしね。

 あったところで、いつもは私の結界魔法で軽くしているから、魔法図もない。

 結界魔法は無詠唱だから、詠唱の言葉を図にした魔法図が存在しないのだ。

 若い人がお手伝いに来てくれることを祈ろう。


 ——なんて祈りが通じたのか、帰りの馬車の中から、若い女性が入り口あたりにいたのを見かけた。

 学校に用がある人なのかもしれないけど、お手伝いに来てくれるかもしれないもんね。

 ただなんとなく、どこかで見たような赤髪の後ろ姿だなと思った。領主城に着くころには忘れてしまっていたけど。





 城に戻ると、待ち構えていたレイルース様に捕まった。


「おかえりネコ〜〜〜〜。さみしかったぞ〜!!」


 とか言いながらフレスの腕からひょいと抱え上げて、ギュウギュウしてくる。

 ひまなの? うちのご領主様、ひまなんですか?

 そして胸元に抱え込み、いそいそと歩き出した。


 従者がお使いから帰ってくると、領主と家令と従者たちで情報交換を兼ねたお茶の時間になる。

 わたしもソファの前のローテーブルに乗っかって、おやつだ。

 今日は潰した甘イモにミルクを混ぜたもの。あっ、小さくした果物も入っている! リンゴだ! あまーい!


 食べながらも聞き耳を立てていると、いつもはさほど変わらない報告が多いのに今日は違った。

 レイルース様はいつも通りの口調で言った。


「——さきほど見張り兵の定時報告で上がってきたんだが、東の谷の方で魔獣が増えているらしい」


 一瞬、場がしんとした。


「——魔獣ですか。魔物ではないんですね?」


 今日は城にいたはずのエドモンドさんも、今、初めて聞いたみたいだ。


「わからんな。魔物に似た魔獣もいる。遠目ではわからないだろう」


 ——東……。


 キンザーヌ大帝国側だ。なんとなく、胸がそわっとする。

 そちらは谷になっているのか。

 国と国の境は大河や山谷が横たわっていることが多いよね。

 ヴェルニア王国とキンザーヌ大帝国の間は谷があるようだ。

 さらにきっと谷底は川になっているのだろう。魔法図などの文化があまり入ってきていないということは、行き来がしずらい地形なんだと思うから。


「だんな様、何かされますか? 準備があるようでしたらこれから取り掛かりますが」

「そうだな、あのネコが通ると鳴る魔導具をいくつか作って設置しようかと思っている。設置場所を選定するのに、周辺の住民から聞き取りしてくれるか? 城壁の東はいらない。できればそちら側に集めたいところだな」

「さようですか。では聞き取りと、最近の日報から魔獣の情報をまとめておきましょう」

「隊長、見回り強化もした方がいいのでは?」


 エドモンドさん、こういう時は昔の呼び方が出ちゃうのか。時々、隊長って言ってる。

 レイルース様も苦笑している。


「見回りもした方がいいだろうが、兵士の人数に余裕もないよな」

「情報を町におろして、自警団に注意を呼びかけるのはどうです?」

「悪くないな。ただ、自警団は一般の領民だ。危なくないようにしないとならないな」

「その辺は何人かで組を作って回るとかきまりを作ればいいんじゃないですかね」

「いいだろう。各ギルドと町長たちに文書を送っておいてくれ。近々、私が養護院へ行く時に、領都のギルドと町長には改めて伝えよう」

「え?」

「ニャ?」


 フレスの声といっしょにわたしも疑問の声を出していた。


「だんな様が養護院へ行くんですか?」

「学校も建ったことだし、確認がてら慰問へ行く。となりだしな」


 そうか、レイルース様が養護院へ行くという可能性もあったか。

 そうしたら、絶対にわたしを離さないだろう。


 やっぱり今日、少しでも魔法図を書いてきておいてよかった。チカがいなくても浄化の魔法が仕事をしてくれる。

 わたしは自分の仕事に満足して、またおやつに集中したのだった。


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