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第2部 第2章 2 ユポー

次の日。

私はカラコンを入れ、髪も染め、パイプ棒を振り回し、奇声を上げて高校の教室に突撃した。

イジめてきたクソヤローどもと殴り合いのケンカをした。


血だらけになり、相手の耳を食いちぎった。

静寂と恐怖と、涙と、震えに支配された教室は、いまもハッキリと覚えている。


その日から、誰も私をイジめなくなった。


話しかけるやつもいなくなった。

そんな私を気に入ったのが、長身のクラスメイト、ユポーだ。


「クレイジー」


彼は私をそう呼んだ。

メキシコ系アメリカ人のユポーは、身長190センチを超える巨漢だ。


ある日、ユポーから「ブルックリンのブラウンズビルを紹介したい」と誘われた。

彼の実家らしい。


「どんな街ですか?」


地下鉄の電車の中。つり革につかまり、揺れながら訪ねた。

ユポーは大きな身を屈めて答えた。


「毎日殺人事件が起こっている街」

「最高のキャッチフレーズですね」

「でも、嫌いになれないんだ。キミに紹介したい」


ユポーの母は再婚を繰り返し、都度変わる父親は常に最悪だったらしい。

だが、成長した彼は、もう父親たちに殴られたりはしない。


逆に半殺しにしたことを誇らしげに語っていた。

白い肌、黒い髪、巨漢に似合わないかわいい目が輝いている。


父親への反抗を機に、暴力に目覚めた。

彼はそう言った。


教室内、フルスイングでバッドを振るう私が、暴力の権化に見えたらしい。


でも、私はそれらの会話で分かった。

ユポーは普通の人間だ。


喜々として狂気を語りながらも、私の目には「泣いている子供」に見えた。

きっと、長くは続かないだろう。


どんな呑気な人間も、その心の底を叩くと、寂しい音が鳴ると言う。

ただそれだけのことだ。


同類などではない。

根底が、根底が違う。


ユポーはもう私の一部だ。

私がまだ見ぬ激しい「生」の火花を散らす上で必要な人間となった。


だから、突き放したりはしない。

ただ、私の「死」に付き合ってくれればよい。


この凶悪な街にだって、ワクワクしている。

これはきっと恋。


利害で成立する恋も存在するのだ。

私は隣に立つ巨漢に、ニッコリと笑みを返した。


電車を降りたユポーは、いかに私がかっこよく見えたのか熱弁してくれた。

激しく生きる姿に感動した、と。


「同志だ」


拳を合わせられた。

意味分からん。

男ってこういうの好きよね。


「毎日、殺人が起こっている」


そう兪やされるこの街の公園は、まず臭く、ゴミだらけだった。

巨大な青いゴミ箱から溢れるゴミ。

ショッピングカート、黒い樽。そのゴミを漁るホームレス。


車のクラクションが鳴り響くその街の夜は、ちょうど銃乱射が行われたらしい。

後に見たニュースでは十一人が死亡したらしい。


「見に行こうぜ」


ユポーは目を輝かせてパトカーの向かう方角を指さした。

まるで綺麗な貝殻を見つけた子供のようだった。


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