次の日。
私はカラコンを入れ、髪も染め、パイプ棒を振り回し、奇声を上げて高校の教室に突撃した。
イジめてきたクソヤローどもと殴り合いのケンカをした。
血だらけになり、相手の耳を食いちぎった。
静寂と恐怖と、涙と、震えに支配された教室は、いまもハッキリと覚えている。
その日から、誰も私をイジめなくなった。
話しかけるやつもいなくなった。
そんな私を気に入ったのが、長身のクラスメイト、ユポーだ。
「クレイジー」
彼は私をそう呼んだ。
メキシコ系アメリカ人のユポーは、身長190センチを超える巨漢だ。
ある日、ユポーから「ブルックリンのブラウンズビルを紹介したい」と誘われた。
彼の実家らしい。
「どんな街ですか?」
地下鉄の電車の中。つり革につかまり、揺れながら訪ねた。
ユポーは大きな身を屈めて答えた。
「毎日殺人事件が起こっている街」
「最高のキャッチフレーズですね」
「でも、嫌いになれないんだ。キミに紹介したい」
ユポーの母は再婚を繰り返し、都度変わる父親は常に最悪だったらしい。
だが、成長した彼は、もう父親たちに殴られたりはしない。
逆に半殺しにしたことを誇らしげに語っていた。
白い肌、黒い髪、巨漢に似合わないかわいい目が輝いている。
父親への反抗を機に、暴力に目覚めた。
彼はそう言った。
教室内、フルスイングでバッドを振るう私が、暴力の権化に見えたらしい。
でも、私はそれらの会話で分かった。
ユポーは普通の人間だ。
喜々として狂気を語りながらも、私の目には「泣いている子供」に見えた。
きっと、長くは続かないだろう。
どんな呑気な人間も、その心の底を叩くと、寂しい音が鳴ると言う。
ただそれだけのことだ。
同類などではない。
根底が、根底が違う。
ユポーはもう私の一部だ。
私がまだ見ぬ激しい「生」の火花を散らす上で必要な人間となった。
だから、突き放したりはしない。
ただ、私の「死」に付き合ってくれればよい。
この凶悪な街にだって、ワクワクしている。
これはきっと恋。
利害で成立する恋も存在するのだ。
私は隣に立つ巨漢に、ニッコリと笑みを返した。
電車を降りたユポーは、いかに私がかっこよく見えたのか熱弁してくれた。
激しく生きる姿に感動した、と。
「同志だ」
拳を合わせられた。
意味分からん。
男ってこういうの好きよね。
「毎日、殺人が起こっている」
そう兪やされるこの街の公園は、まず臭く、ゴミだらけだった。
巨大な青いゴミ箱から溢れるゴミ。
ショッピングカート、黒い樽。そのゴミを漁るホームレス。
車のクラクションが鳴り響くその街の夜は、ちょうど銃乱射が行われたらしい。
後に見たニュースでは十一人が死亡したらしい。
「見に行こうぜ」
ユポーは目を輝かせてパトカーの向かう方角を指さした。
まるで綺麗な貝殻を見つけた子供のようだった。