動揺するゼロ博士の尻を蹴って転ばせた。
ゼロ博士は起き上がりながら、何度もこちらと周囲を交互に見た。
「そんなお店は存在しませーん。あなたを呼び出すための罠です」
机の影に隠れていたナナナが、銃を構え、ゼロ博士に対峙する。
更に、真横の死角に待ち伏せしていたジュウも銃を突きつける。
「ガッデム! お前ら何者だ? 何が目的だ?」
「ハッ。分かっているくせによく言いますねぇ」
「ナナナか」
相手さんもナナナのことは警戒はしていたらしい。
「あなたが世界的なパンデミックを生み出した『図書委員会』の一人であり、学者のゼロ博士ということは分かっています。ワクチンの作り方を教えてください」
「教えるか、ばーか」
「大量殺人鬼め」
ジュウの言葉に、博士が声を高く反論する。
「時代が進めば評価も変わる。人間はいつの時代も『倫理の壁』を超えてきた。伝染病の隔離もそうだ。人権無視だと思わないか? でも踏み越えたのだよ。そうやって人間は進化してきた。今さら目をつむるな! 私のような非倫理的なマッドサイエンティストが生まれたことすらも、人類の自浄作用。生まれるべくして生まれた救世主なのだ!」
ゼロ博士の主張に、ナナナはピクリとも動かず、代わりに声のトーンを落とした。
「自己正当化の主張はどうでもいいです。ワクチンの作り方を教えてください」
「ワクチンの作り方は教えられない。人間の進化のため、ウイルスを根絶させる訳にはいかないのだよ」
ゼロ博士が銃を抜き、発砲する。
「なっ!」
見えなかった。
恐らくジーパンの腹側に隠したハンドガンを抜いたのだ。
だが、速すぎて何が起こったのか理解できなかった。
ナナナはその速度に対応し、発砲したが――何と博士はその弾を寸前で避けた。
サイレンサー無しの銃撃戦は、しかし、ほぼ一瞬で終わり、誰かが駆けつけてくれる可能性は低そうだ。
ナナナは胸を押さえて倒れ、ジュウも脇腹を抱えるように倒れた。
「まさか……自身のDNAをいじってるんですか?」
「そうだよ。ナナナく~ん。人間には難しい反応速度。まだ未公開の技術だけどね。おもしろいことできそうだよね」
「くそっ……たれ」
ナナナのうめき声に被せるように、博士が声を上げる。
「私は、神だ!」
博士は残った俺に銃口を向ける。
あれ、ここで終わり?
トゥルーエンドどころか、バッドエンド?
こんなとき、考えるのはロクのこと。
あいつが幸せになればいい。
巻き込まずにすんだだけでも大勝利か。
そう思って目を閉じる。