──時は夏祭りの時間へと
「ヤバい。しもうたわー!」
楽しかった夏祭りの締めを飾る花火大会を楽しむ私たちを前に、
「何、いきなりどうしたのですか?」
私は気が動転しながらも、美伊南ちゃんの返答を待った。
「
「えっ、もしかして全教科ですか?」
もしそうだとしたら彼女に
何で一ヶ月もあった休みの間にできなかったのだろう。
毎日二時間くらいの短時間でも十分に終わる量のはず。
「いや、二時間もあったら余裕で仕上げて、大作ドラマ見放題じゃん♪」
「……あの、人の心を勝手に読まないでもらえますか?」
「そんなこと言ってもさ、英子はすぐに顔に出るからさ~♪」
それって私の額に油性マジックで肉と落書きされたような感じかな。
いつぞやの
「違うよ、教科は終わらせたんだけど、自由課題がまだでさ」
それを聞いて、私は胸を撫で下ろす。
だよね、いくら教科があると言っても、あと半日で全教科の宿題があったら終わらないよね。
「……で、肝心の自由課題の内容は何ですか?」
「読書感想文だよ」
なるほど、それならつじづまが合う。
昔から美伊南ちゃんは本を読むのが不得意だから。
「英子、まだ明日の朝まで時間があるからさ。簡単に読めてサクッと書ける本がいいんじゃないかな?」
「ふ~ん。例えばどんな本ですか?」
「そうだね、男女の心の揺れ動きを入れたノクターン小説かいな」
「それ、一番駄目なやつですよ!?」
私は顔から火が出そうな感情で、美伊南ちゃんのその考えを取り消す。
いやいや、官能小説はマズイでしょ。
「美伊南ちゃん、もっと身近に素敵な本があると思いますよ」
「そうかいな、例えば?」
「坊っ○ゃんとか、平○物語とか……」
「何それ? ジジクサイ純文学より、ドキドキなラノベ読んだ方が面白くない?」
駄目だ。
美伊南ちゃんには何を言っても無駄だ。
こうなったら腹をくくるしかないのかな。
「なあ、英子。お手軽さならネット小説とか駄目かいな」
美伊南ちゃんがスマホをポチポチと操作して、私にその小説サイトを見せつける。
私はその画面を
『放課後限定、鼻血確定ラブロマンス。僕たち、愛の交わりがだいしゅきな男の
それを見た私は恥ずかしさのあまり、視線を宙に泳がせる。
「何てものを見せるのですか。これも、ノクターン小説で、しかもBLじゃないですか!」
「まあまあ、嫌も苦手も好きのうち♪」
「……だから、この感想文は入選して新聞に載ったら、先生、生徒だけでなく、小学生とかも見るんですよ!」
「ええやん。
「もう、楽しい童謡ごっこじゃないんですよ──はあ、分かりました……。」
──私はその話題から離れて、美伊南ちゃんと近所の本屋に行く約束をした。
本当は図書館に行きたかったけど、時間が時間だけであり、閉館しているからね……。
それに多少、お金がかかっても書店で本を選んだ方が良いよね。
本屋にも読書感想文にお
****
「ひゃっほう♪
僕は漫画コーナーへ行ってくるよ。あの新刊あるかな?」
「俺も行くぜ。面白いのあるか?」
「ああ、今流行りの熱血少年漫画とかどうだ。玉ねぎ頭の主人公が
……だから何で、この男子たちもついてきてるのよ。
彼らの
それに玉ねぎが主役なヒーローものとか、美伊南ちゃんに知られるわけにはいかない。
そんな感想文なんて、一生の恥だ。
周りの生徒たちが彼女に対し、奇妙なイメージを持たせたくない。
さて、その美伊南ちゃんはいずこへ……。
「──で、これがその噂の漫画のわけね。なるほど、確かに血わき肉踊るかつおぶし的な内容じゃん」
「だろ。この良さが分かるなんて素晴らしい。今度、これ、実写映画になるんだぜ。良かったら一緒に行かないか?」
「さ~て、どうしようかね。モテる女は
「──なあ、
「美伊南へのお誘いじゃないんかい!?」
男二人で肩を並べて笑い合う姿に呆れた美伊南ちゃんが、こっちに戻ってくる。
「本当、リアルでの男同士のホモな友情ほど、キモいもんはないわ」
──そこへチャベルが鳴り、女性のアナウンスが、スピーカーを通じて周りに反響する。
『間もなく、当店は本日の営業を終了いたします……』
まさに閉店寸前。
美伊南ちゃんは例の玉ねぎマンの漫画の表紙を眺めながらも、ホクホクとした顔でレジへと向かうのだった。
一体、どんな内容になるんだろう。
私は若干不安に思いながら、美伊南ちゃんの行く末を心から願うのだった。
もしかしたら内容によっては停学もありえるかも……。
いざ、さらば。
さらば、美伊南ちゃん……。
第13話、おしまい。