「トリック、オア、トリート♪」
今日はハロウィン。
直訳するとイタズラしようか、嫌ならお菓子をくれないかの意味なんだけど……。
「さてと、とびっきりのマジックを見せてあげる♪」
「あの、美伊南ちゃん。そのトリックの意味じゃないですよ」
「そうなの?」
「ハロウィンの日は大人が子供たちにお菓子をあげるんです」
「へえ、美伊南の代々では何かマジックをするしきたりだったんだけど?」
「……美伊南ちゃん、ハロウィンは宴会芸を披露するんじゃないんです……。
あくまでも悪い子にならないようにお菓子をあげるイベントなのですから」
「うわーん、そうなん。美伊南、オジさんから不良にさせられたー!」
そして、ぎゃあぎゃあと泣きわめく。
確かに彼女は金髪でパーマだけど、それイコール非行に走っているとは思えない。
「まあ落ち着いて下さい。それよりもお菓子入りますか?」
「……いでゅ」
「はい、ちょっと待っていて下さいね」
赤子のようにべそをかく彼女を
あれ、いつもは飴玉があるのにおかしいな?
さっきから手に触れるのは金属の形状──自転車のキーと家の鍵のみだ。
そういえば今日の登校中に園児たちにせがまれて、お菓子をあげたよね……。
だったら私はどうすればいいの?
→たたかう
にげる
じゅもん
さくせん
──たたかうにしても、美伊南ちゃんの気の強さだと押し返されて逆効果になりそう。
お互い仲良くしたいから、ケンカになるのは嫌だし、たたかうは駄目だな……。
じゃあ、にげる?
それは一番やったらいけない。
場合によってはナイーブな美伊南ちゃんを傷付けて、再起不能にさせるかも知れない。
では、じゅもんはどうかな?
えっ、私は魔法使いなのかって?
そんなわけないよ。
出来ることと言えばメイド服に着替えて、オムライスの上にケチャップでハートマークを書いて、『お客様に私の愛情を届け。美味しくな~れ、萌え萌えきゅ~ん♪』
……とか、やっぱり恥ずかしすぎて出来るかあああああっー!
だとしたら最後のさくせんか。
でも、さくせんにも色々あるんだよ。
待てよ、
美伊南ちゃんは気分屋でワガママだから。
あの怒ると狂犬な彼女を、意のままに操れたら苦労しない。
「──ああ、どうすればいいの!?」
「どうしたの、
ヤバい、悩みすぎて思わず声に出てしまった……。
「そこのお嬢さん、何かお悩みかな?」
私が頭を抱えていると、その場にあの王子さまが現れた。
でも、なぜか渡り廊下から三輪車に乗って、
そもそも廊下は走ってはいけないのでは?
まあ、いいか。
昼休みだし、時間は限られている。
「ねえ、
「そうだな……」
大瀬君が私の意図を直感したらしく、制服の裏ポケットの中身をごそごそと触っている。
そこから見参したのは伝説の秘刀。
グチャグチャとなり、原型を留めていない
「ごめんな。こんなお菓子じゃ、女の子受けはしないよな……しかも濃厚キムチラーメン味じゃな……」
確かにキムチに含まれているニンニクの匂いを漂わせた、美少女の
「なあ、蛭矢!
何か食べ物持ってないか?」
「えっ、いきなり何なのさ?」
「美伊南がハンガーノック寸前だってよ」
「ふむ、低血糖は大変だな」
蛭矢君が胸ポケットからはみ出していた棒状の物を見せつける。
「……いや、これはスティックのりだった……」
ずるっと滑りこけそうになる私。
「えっと、あったぞ~♪」
「──タララララッタラ、チョコレートプロテインバー♪」
「ナイスだよ。蛭矢君。ちょっとそれ頂戴します」
「あいよ。持っていけ、
「それ、表現が
「まあまあ、今は彼女を救うのが先決だ。急げ、
そうだった。
今は美伊南ちゃんを助けないと。
──しかし、その場には彼女はいなかった。
しかたなく私は近くで談笑していた美伊南ちゃんと仲が良い女子グループから、彼女を探すあてを聞いてみる。
「──ああ、美伊南なら、何かゲーセンのコインゲームで、お菓子ゲットするらしいよ」
「ええっ? 午後からの授業はどうするのですか!?」
もう、自分勝手な小娘め。
なら、このお菓子は私がいただきます。
「おい、英子ちゃん。それ今日の僕のおやつだから。もし食べるんならお金とるからな」
「てへぺろ♪」
「可愛く言っても駄目だぞ」
第15話、おしまい。