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ep.4-7 Considération 《考察》

◇◆ Hervé ◆◇


今私がいるのはN大学の別棟8階にある自分の研究室だ。

……やはり【魔導基部】に関しては直接その組織を解剖するのが最も確実な方法だ。だが魔術師というものは、死んだら肉体を残さず消えてしまう。これはこの【魔導基部】に秘められた謎を解き明かされるのを避けるためなのだろう。それほど、この組織は重要な部分であることがわかる。



つまり【魔導基部】を直接お目にかかるためには生きた魔術師にメスをいれなければならないということ。


…………


…………。



リラとリス……彼女たちには7月に魔力測定の実験に協力してもらった際に、それぞれ【サンプル】を頂戴している。これは、彼女たちがだ。

保存方法は乾燥保存やホルマリン保存など、いくつかの滅菌瓶に分けて入っている。



魔術師が《基本魔法》と呼ばれる自然や物体を操る魔法と、《特殊魔法》と呼ばれる個々で変わった魔法を使えることは周知の話。

そして彼女たちの特殊魔法とは、リラが『danse des fle花の舞urs』、リスが『vent fro木枯らしid』。彼女たちは、季節の妖精か何かなのだろうか……それほどに彼女たちは可憐で美しかった。



……それはさておき、このサンプルは彼女たちが特殊魔法によって風と共に作り出したものだ。リラは桃色の花弁を、リスは黄色の葉を。その一部をいくつかの滅菌瓶に分けて保存している。

更に、鍛冶屋アンリが作り出したとされる街並みの一部も、サンプルとして置いてある。



恐らく魔術師たちが作り出したこれらは微量だが《魔力》を纏っているのではと考える。自然界に存在しているものと何か違う点があるのではないかと、様々な点から観察した。


そうしてわかったのは、彼女たちが魔法で作り出したものは、一般的な花や葉に比べて朽ちるのが遅いということ。まるで魔力に守られているかのように。もしかしたらアンリの作り出した「町」も、耐震性など比較したら差異があるかもしれない。だが術者が消えたらその物体はどうなる?アンリが作り出した町というのは……


………


………魔法とは一体、なんなのだ。


魔術師の特殊魔法に規則性があるとしたら、彼らの特殊魔法が《神話》を表しているということ。彼女たちは風の精かとも思ったが恐らく春と秋なのではと考える。つまりリラは《春》、リスは《秋》、アンリは《創造》、リアムは《医学》だ。ほかにも《酒》や《治癒》を使う魔術師もいると聞いたことがある。そしてそれぞれにはギリシャ神話のモチーフとなる《神》がいる。それが、魔術師が神々と関連があると考えた理由の一つでもある。



簡易的に纏めると以下のようになる。


○アンリ……『créerすべてを tout創造する魔法』創造を司る神・ヘパイストス

○リアム……『réanimat蘇生ion』医術の神・アスクレピオス

○リラ………『danse des fle花の舞urs』春の女神・アウクソー

○リス………『vent fro木枯らしid』秋の女神・ヘーゲモネー


……etc



……御伽噺がすぎるだろうか。

しかし神々など数が限られている。それらを全部に当てはめたとしても魔術師は余るだろう。この考察に適応されない者や、似たような特殊魔法を用いる者もいるのかもしれない。

まぁ、それはそうか……鍛冶屋はアンリ一人で賄いきれるわけはないし、医師のリアムだってそうだ。類似の特殊魔法を持つ者もいると考えてもいいかもしれない。

そのうち特筆すべきほどに才能が開花する者というのはやはりいるのだろう。


だが、わからない。いつの時代にもその神を象徴する者は存在するのだろうか。例えば……リアムの前は別の誰かが《アスクレピオス》を務めていた……?だが彼ほどに優秀な魔術師の医者がいただろうか。それとも、周期的にこの世界は破滅と再生を繰り返しているのだろうか


……。


まだまだ検証の母数も少ないうえに全員が全員あてはまると決まったわけではない為、これが確実とは言えない。だが、考察していく余地はある。


それに当てはめて考えると、『この世の全てを知っている』とされる神・ゼノは《全知全能の神・ゼウス》……そして《死を司る神・ハデス》や《海や地震を司る神・ポセイドン》にあたる神もいるのかもしれない。



……まったくもって恐ろしい。

やはり、8年前の大災害は主にこの神々が引き起こしたのではなかろうか。



神とは一体なんなのだ?魔術師の祖先……?いや、神々自体が魔術師なのかもしれない。

……いや待てよ。ヘパイストスはゼウスの実子だし、アスクレピオスはゼウスの直系の孫。ということはもし……もしこの仮説が正しければアンリやリアムは神について何か知っているのでは……?


……


私は考察をパソコンに打ち込む。データは論文用のファイルに保存した。

もしこれが本当なら、私は神の領域を見ることなるだろう。



……だが、すべては証明してみてこそだ



―さぁ、実験だ……【魔導基部】を直接調べるのだ。

もう、引き返せない。

だが絶対にやる価値はある。



研究施設の人間に、彼女たちどちらでもいい、連れてこさせる手配を……



……



電話をかけようとしたところで私は声を聞くことになる



『■■■■■■■■……』



「……!?誰だ!!!!!」



辺りを見回すが誰もいない……と思ったその時



『エルヴェ・マティス』



頭が痛い……なんだこれは……直接頭の中に言葉が流れてくるような……

だが私はこの声の主を知っていた




『―――……の時間だ』



……!!!!!




突然、怒号のような爆音とともに目を開けていられないほどに眩い閃光が走る。目を閉じても広がるのは真っ白な光だけ。

窓は割れ、研究室の壁は瓦解し、書類や研究室の備品が光に呑まれそして……爆ぜた。



全ては一瞬の出来事だった。



………


…………



…………後に知ったことだが、私は即死


意識だけはなぜか鮮明で、動けないままの状態の私が聞いたその声は、フレデリックのものだった。


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