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第061話 相手の候補

 レストランを出て、俺達五人は春野・安達・加賀見のグループ、日高・俺のグループに別れた。

「じゃ、適当に二人で座れる場所探すか」

「りょーかい」

 とりあえずエスカレーターの周囲にベンチがあったことを思い出し、そちらに向かう。

 移動している間、相変わらずこちらへの視線が時々入ってくるが日高は春野と一緒にいるときで慣れてるのか、平然としていた。春野に続き日高にも悪いことしたなあ。

 ベンチの方には幸い誰も座っていなかった。

「ここにするか」

「そーだね」

 俺達は二人で並んで腰を下ろした。どっこいせ。


 座って少しすると、日高から話しかけられた。

「ね、凛華と映画行ったとき何かなかった?」

 質問の意味がよくわからず、少し考える。

「ん、特に変なことは起きなかったぞ」

「へー。例えば手を繋いだりとか」

「いやしなかったな」

「ポップコーン二人で分け合ったり」

「春野も俺も映画では何も食わなかったな」

「1つのジュースを2つのストローで一緒に飲んだり」

「今時そんなことそこらのカップルでもやらないと思うぞ」

 映画のシアターのどこでジュースをそんな風に飲み合えっていうんだよ。

 日高の質問にことごとくノーで返していると日高が露骨に肩を落とす。

「なーんだ。少しはカップルっぽい真似したのかと思った」

「何で」

「年頃の男女が夏休みに二人きりで映画観に行くんだよ? 少しは青春らしいイベント起こしてると思うじゃん」

「それ交際してない男女にも当てはまる話なのか」

 それなら今のお前と俺にも該当してしまうのだが。俺今日だけで二股掛けてることになってしまうのだが。

 あと年頃ってお前も同い年だよな。

 あとお前のいう青春にはカップルがイチャイチャしてるシチュエーションしかないのか。

 色々ツッコミ所が多い一言だなと思いつつ、切りがないのでツッコミはやめておく。俺って大人。


「第一、今の春野に彼氏欲しい願望なんてあるのか」

 安達にも加賀見にも、そして日高にも春野にも揃って今の友達がいる生活をできる限り満喫したい様子が見られる。今日にしてもそんな姿ばかり見てきた。

 そんな奴らが恋人を欲しがっているとは全く想像できない。

「ん-、まあないかな」

 日高もあっさり認めた。長いこと一緒の時を過ごしてきた幼馴染の見解だ。信頼してよかろう。

「ならお前のいう青春を春野が迎えるのはまだまだ先だな」

 春野が最低でも恋人を作ってなければ成り立たないからな。

「うーん、そんな遠くの未来でもない気がするけど」

 日高が人差し指を顎に当てて少し上に視線をやる。

 そりゃ春野が彼氏作る気になったらあっという間だ。王子を筆頭に彼氏になりたい男がわんさか現れ求愛するだろう。春野にはり取り見取りだ。


 しかし、実際に春野の相手となる男とは一体どんなんだろう。

 以前の俺の認識では王子こと榊が最有力候補だったが、一学期の打ち上げにおいて春野の方に脈がほとんどないことが明らかとなった。

 王子の方はそのときに春野へ半ば強引なアプローチを掛けており次を期待している様子だったので、王子がめげずに何回もアタックしていればいつか実を結ぶのかもしれない。

 王子以外にも性格の良いイケメンというのはあの学校に探せば何人かいるだろう。

 その中で既に彼女を持っている奴は除外するとしても、全学年に亘れば人数に困ることはあるまい。

 春野は校内でも有名だから、二年生にも三年生にも春野狙いのイケメンがいて何らおかしくないのだ。

 繰り返すが春野はそういう男共の中から好きな男を選べる立場にあると思う。そのぐらい容姿に優れている。

 性格だって天真爛漫であり、周りの人に配慮できる常識的な人である。どこぞの悪女とは大違いだ。


 そう考えると日高がそう遠くの未来の話でもないというのは合点が行く。

 それはそれとして、

「春野のことも気にするのはいいが、お前は人のこと言えるのか」

「へ?」

「彼氏いないのはお前も一緒だろーに、春野にばかり青春を求めるのは問題ないのか」

 ツッコまずにいられなかったことをツッコむ。

 怒られそうだなー、て思いつつ口にしたのだが、

「あー、こりゃ耳が痛い」

 日高は片方の耳を指で塞ぐフリをした。

「私も今のところ彼氏欲しいとは思ってないんだけどさ。友達の恋愛とか面白く思っちゃって」

「正直な野次馬だなオイ」

 そういう中高生は多そうではあるが日高も例に漏れず、と。

「だから私に彼氏は要らないけど、凛華の彼氏は欲しい!」

「いや、それおかしいだろ」

 お節介とかそういうレベルじゃなくただの頭おかしい奴だろそれは。

 なら念のため確認しておくが、

「もし春野の彼氏が春野を泣かすような奴だったらどうする気なんだ」

「私がソイツを泣かす」

 うん知ってた。

「じゃあ、春野に彼氏ができたらお前が品定めするつもりか」

「え……うーん」

 日高が考え込む。腕をわざわざ組んでるところがホントわかりやすい。

「そこまでするのは……でもその男がロクでもない奴なのは……でも余計なお世話になっちゃわないかな……」

 おお、葛藤しまくってる。幼馴染が心配なのと過保護を恐れるの狭間で揺れてるな。

「まあ、春野に実際彼氏ができてから考えるのがいいんじゃないか」

 今そんなことを考えても皮算用以上の何物でもない。

「うん、そうする」

 日高がこっくり頷いた。面倒なことを考えなくて済んだと言わんばかりだった。

 ただ、春野に彼氏ができたら俺も拝んでみたい。ソイツ絶対主役級だろ。


 この後、俺達二人はしばらく会話がなかった。

 日高も俺もスマホをいじって暇を潰している。

 まあ、春野以外に共通の話題もないのでその話が終われば後は無言になるだけである。

 俺は自分の自由時間を確保できてありがたい。

 日高の方は何を考えているかわからないが、何となく気楽そうに見えた。


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