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第080話 遠慮なんて

 私はミユマユとともにコンビニへ向かっている。

 凛華には用事があると言って一旦離れたわけだが、実際は何の用事もない。

「大丈夫かな、あの二人」

「多分。少なくともアレ以上のハプニングなんて起こるとは考えにくい」

「……かもね。あの黒山君だもん」

 横に並んで歩いているミユマユがそんな会話を交わす。

「それにしても、皐月が凛華と黒山を二人きりにさせるのはビックリした」

 マユが私の方を見た。

「うん、アレってどうして?」

 ミユも私の方を見て問い掛ける。

「うーん、黒山なら何だかんだで凛華を助けられるかもって思ったんだよね」

「どういうこと?」

「凛華って黒山と遊びに行ったときはいつも上機嫌なんだよ。だから黒山と話をすればちょっとでも元気付けられるかもしれないって期待したんだ」

 凛華本人は気付いてないかもしれないが、ミユマユやクラスの友達と一緒に遊んだときよりも少しだけ楽しそうにしていた。

「それに、あのとき・・・・凛華を救ったのは黒山だし、今回もまた凛華の力になってくれるんじゃないかとも思った」

 私には、今の凛華をどう励ましていいか見当も付かなかった。

 愚痴を聞くだけならいくらでも聞くことができるが、それだけでは済まないような気もした。

 そんなとき、凛華にとってヒーローとも言える相手なら、どんなことでも頼れるんじゃないか。

 私達だけじゃ頼れないことでも、黒山になら気兼ねなく助けを求めるんじゃないか。

 そう思ったからこそ私は凛華を黒山に託して、一旦退散したのだ。


「……そう」

 マユがそれだけ呟く。

「……ね、それって凛華ちゃんが黒山君のこと」

「それはないかな」

 ミユが言いそうなことを予想して、先回りに回答した。

「……え?」

「凛華は、黒山のことを一人の人物として興味は持ってる。けど、黒山と付き合いたいとか話したことはないし、以前黒山と二人きりになったときでもカップルっぽいことをしてないし、したいわけでもないんだってさ」

 黒山に対して物語の主人公を見るように関心を抱いているのは凛華本人も明言していた。

 でも、それでもって黒山に恋愛感情を持つには至っていないようである。

 今後はどうなるかわからないから、二人で仲良さそうにしてるのを見るのは楽しいけどね!

「……そうなんだ」

 ミユが私から正面の方へ顔を向け直した。

「とりあえず、凛華がこれで立ち直ってくれればいいけど」

 黒山と二人で話をしてもどうにもならなかったら、またどうするか考えるか。

 さっきまでの様子からして、凛華相当参ってたしなあ。早くいつもの元気な凛華に戻ってほしい。

 そこへいくとさっきの告白バカがとにかく憎たらしい。

 凛華に振られたときの奴の表情を見たときはほんのちょっとだけせいせいしたものの、学校の皆が美形と評しているあのツラをベリベリ引き剥がしてやりたい気分に駆られた。



 五人で合流したとき、凛華はもういつもの調子に戻っていた。

 一体黒山とどんな話をしたのか気になったが、さすがに五人全員いる中で問い質すような野暮な真似はしなかった。


 なので、帰りの電車で凛華と二人きりになったときに訊いたよ!

「ねね、黒山とさっき何話してたの?」

「え、そうだな……」

 凛華が躊躇している。え、何この雰囲気。

 まさか、二人のどっちかが告白したとか⁉ そうだったらメッチャ面白いけど、いくら何でもそれはないか。


「これから困ったことが出てきたら、黒山君や他の頼りになる人達をどんどん頼ってもいいんだってさ」


 凛華の答えは、私にとって全くの予想外だった。

「へ? 何それ」

「えーとね……」

 凛華が私にさっきまでの黒山のやり取りを説明してくれた。

 黒山……。面倒だからって全部他人にぶん投げてきたな。

 でも残念だったね。凛華はそんな黒山の言葉の意図をきちんとわかった上で、これからも黒山に頼る気満々みたいだよ。

 だって、

「何か、黒山君の言葉を聞いてね、黒山君には遠慮しなくてもいいかなって思うようになっちゃって」

 凛華がそんなことをすっごく楽しそうな笑顔で言うんだもん。


 凛華の表情を見たとき、黒山に今回の件を頼んでよかったと確信した。


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