とある日の業間休みのこと。
「ちょっと飲み物買ってくる」
女子四人に断って席を立とうとしたら
「ダメ」
加賀見がノーを突き付けた。だろうと思ったよ。
「普通に喉渇いてるから飲み物を摂ろうとしてるだけなのに何でダメなんだ」
「ここでOK出したら明日も明後日も同じ手で抜ける気だろーが」
チッ、バレたか。
しかし今喉が渇いているのは本当の話だ。このまま次の授業を受けるのも少々しんどい。
どーしよーかと考えていると
「あ、私も喉乾いてるから一緒に行こ―よ」
「じゃあ私もついでにいいかな」
春野と日高が同伴に名乗りを上げました。
「ん、大丈夫」
「気を付けてねー」
そしたら加賀見も安達もOKをあっさり出しました。前々から思ってたけどこういうのって差別って言わんの?
ただ、この流れのお陰で俺も飲み物を買いに行くことができました。
もう一つの一人になりたいという目的を叶えることはできませんでしたが。
かくして春野・日高・俺の三人で最も近い自販機に向けて廊下を歩く。
ドンドン寒くなり、今から冬の廊下の寒さを想像し軽く震えていると
「ねえ、先輩の件って最近どうなの?」
春野が質問を俺に飛ばしてきた。
先輩か。俺、そして春野と共通の知り合いであるところの先輩など一人しかいない。
「相変わらずだな。今日もいい案が浮かぶかどーか」
奄美先輩との例の作戦のことを正直に話す。
「へえ、何か苦労してそーだね」
「わかるか?」
「表情に出てるよ」
え、そうなのか。今の俺、春野並に顔に出やすいタチになってるのか。
「あー、例の件ね。事情はよくわかんないけど、黒山は今も協力してるんだっけ?」
日高が会話に入り込んできた。
「まあな」
「それって毎日やってんの?」
「ああ、放課後にな」
「うひゃー、マジで? 大変だね」
「サボったら怖いからな」
加賀見がね。
「え、そんなおっかない先輩なの?」
うん、そりゃ勘違いするよね。
「ん、まあ」
説明するのメンドくさいし適当に話に合わせる。
「もー、黒山君ったら。奄美先輩そんな怖い人じゃないでしょ」
春野が奄美先輩のフォローをしてきた。おいやめろ、話がややこしくなるだろ。
「え、どういうこと?」
日高も首を傾げる。
「実はね……」
春野が日高へ向けて簡単に事情を説明してくれた。
そういえば春野もあの場に居合わせてたな。代わりの説明ありがたや。
「……なるほど、マユなら本気でそうするかもね」
「わかってくれたか」
「凛華みたいな説明をアンタがしてくれたらもっと早くにわかったけどね」
「スマン。説明が面倒でつい」
「何でもかんでも正直に話せばいいってもんじゃないんだよ」
そんな会話をしてる内に自販機へ辿り着いた。
「んじゃ、俺は最後でいーわ」
「え、そんな悪いよ」
「いーからいーから」
俺は自販機から少し離れたところに移動した。
「ありがと、じゃあ私が最初で」
「あ、ちょっと皐月……しょーがないなー」
日高が我先にと自販機に硬貨を入れて飲み物のラインナップを吟味する。
春野はそんな日高を見て文句を言うのを諦めた。この二人にとっては日常なんだろうな。
「私はこれね」
とジュースの一つを選んだボタンの音、ガコンと缶が自販機の取り出し口に落ちた音が鳴った。
「はい、次は凛華どーぞ」
「え……うん、黒山君悪いけど先選ぶね」
春野が俺の方を向いて少し間を置いた後、軽く頷いて自販機のすぐ前に移動した。
春野は日高と同じジュースを選んだ。
「お、気が合うね」
「皐月が飲んでるの見たらつい」
苦笑交じりに日高の言葉に答えつつ、春野が缶を取り出した。
俺は最初から目を付けていた商品のボタンをピッと押す。
「へー、コーヒーか」
「時々飲んでんだ」
「それもホット……ホントに喉渇いてたの?」
一応事実です。今結構涼しいからこれでも喉を潤すのに問題ないかと思いまして。