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第101話 お詫び

 放課後、俺は鞄を手にとある場所へ向かう。

 ちょっと前だったら向かう先に昇降口以外はあり得なかった。そしてそのまま自宅へ直帰してラノベやマンガを読んで風呂入って夕飯食ってまたラノベやマンガを読んでベッドの上で寝るのが日常だった。

 ところがある日を境に、その向かう先が変わってしまった。

 俺は空き教室の扉を開けた。

「こんにちは先輩」

 本来だったらそこに生徒はいるはずもない。

「こんにちは」

 だが今ここには奄美先輩が一人、どこかの席に腰を掛けて待っていた。


 奄美先輩とは以前第一校舎の廊下の片隅の方で落ち合っていた。

 その奄美先輩がそのすぐ近くの空き教室を指して

「これからはここを使いましょう。以前使ったことあるけど誰にも気付かれなかったし」

「はあ」

 なんてやり取りを経てここを使うに至っている。以前使ったときに気付かれなくても今回も同じように無事で済むとは限らないんですが、というツッコミは無駄に思えたので止めた。

 俺もどっか適当な席に腰と鞄を下ろした。どうせ誰も使ってないので特に遠慮もない。


「今日は何かいいアイデア浮かんだ?」

「ん-、今のところは何も」

「そう……」

 奄美先輩がそれぎり黙ってしまう。あなたもいいアイデアないんじゃないですか。

「ここ連日の中でアイデアは出し尽くした感もありますけどね」

「まあ、そればっかりは仕方ないけど」

 先輩もさすがにそこは同意らしい。こう毎日顔を合わせて二人で浮かんだアイデアを出し合ってはこれは没あれは問題ありと次々に取り下げていったのだ。ネタ切れになるに決まっている。

「でも今日こそは素晴らしいアイデアが出るかもしんないし、悪いけどもう少し考えてくれない?」

「はあ……わかりました」

 しょうがないと俺ももう少し頭を捻る。うーん。

 と、ここで思いついた。

「先輩の方からお詫びの名目で榊をご飯に誘うのはどうですか?」

「ん?」

 奄美先輩が興味を引くような返事をした。

「この前の告白に付き合わせた埋め合わせをしたいとか言ってどっかの喫茶店なりファミレスなりに誘うんです。アイツも優しい性格なので先輩がそう言ってきたら断らないと思いますよ」

 一気に説明する。相手ともっと仲良くする機会としてはそんなに悪くないはずだ。

「なるほど……」

 おお、先輩が乗り気だ。俺からアイデアを出す場合大抵は二言目に問題を指摘してその流れで没になる。それと比べると今回は反応が良い。

「大筋はイケそうだし、その方針でもうちょっと詰めましょうか」

 先輩から賛同を得られた。おお、今日は早く帰れそうだ。


「どのお店がいいのかしら」

 先輩も俺もスマホの地図アプリで学校周辺の飲食店を何軒かピックアップする。

「こことかいいんじゃないですか」

「どれどれ……ラーメン屋に見えるんだけど」

「周辺のお店の中では評価高いですよ。煮干豚骨が人気だとか」

「今はどうでもいいわよ。喫茶店とかないの」

「喫茶店でしたらここがオススメかなと」

「へー、何で?」

「ネギトロいくら丼がスゴい美味しいってありまして」

「ねえ、今回のお店選びって食べ歩きが目的だっけ?」

「いや? 奄美先輩が好きな人と交流するのが目的ですけど」

「なら料理の評価よりも店の雰囲気の方が重要だと思わない?」

「……?」

「何でわかってないのよ」

 奄美先輩の言葉の要領が得ず、返事に困ってしまう。はて、雰囲気がそんな大事なんでしょうか。料理を売ってるお店なのに料理の味を気にしないとはこれ如何に。

「……やっぱいいわ。この案は保留にしましょ」

 奄美先輩がスマホをしまった。ああ、折角うまくいきかけたのに。


 本日の収穫は学校周辺で評判のラーメン屋と喫茶店がわかっただけでした。今度行ってみよ。


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