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第102話 別々に

 教室の窓が開けられており、そこから入ってくる空気が少し前より涼しくなった。

 段々と長袖が必要な時期に移るのを肌身に感じている中、女子四人がお喋りしていた。俺のすぐ近くで。

 今日も今日とて安達・加賀見・春野・日高が集まって俺を巻き込みながら談笑しているという具合だ。女子四人の皆さん、偶には気分を変えて安達の席の近くで会話するのもいいんじゃないかな。俺は自席で読書してるからさ。

 そんなことを考えていたときに日高が

「ゴメン、テスト勉強また見てくれないかな!」

 急に両手をパッチンと合わせて頭を下げてきた。神社へお参りに来たのかな? なら賽銭ちょうだい。


 まあ、日高の話がどういうことなのかはわかる。来週には二学期の中間テストがあるので一学期のときと同じく俺達に数学の勉強を面倒見てもらいたいのだろう。

「皐月、数学の勉強してないの?」

「う……、いや、やることはやってるよ」

「どのくらいのペースで?」

「……先週は集中して1日1~2時間はやったよ、うん」

「なら特に心配しなくて大丈夫なんじゃないの?」

「えーと……」

 いつもの日高はどこへやら。加賀見の質問に対して歯切れが悪く目が泳いでいる。絶対ろくに勉強してないよな、これ。

「はあ、まあこっちも先日の件で借りもあるし」

 借り? 日高と加賀見で何かあったのか?

「ん、借りって何の……あー」

 あれ、日高の反応も微妙だな。最後何のことか思い出したっぽい素振りを見せてはいるが。

「私もやりたくてやったことだし、借りじゃないさ」

「……そう」

 二人のやり取りに耳を傾けるも、何の話だかさっぱりだ。

 俺が女子四人の所から抜けてた間に起きたことでも指してるのか? なら皆目見当も付かない。


 それはそれとして加賀見が

「でもまあ、皆の遊ぶ時間を削るのもアレだし、今回は私一人が皐月の勉強を見るってのはどう?」

 と提案したときは大いに驚いた。

「へ?」

「マユちゃん?」

 驚いたのは他の奴らもだった。

 加賀見のことだから俺はてっきりこれ幸いと俺への嫌がらせにこの面子を勉強会に巻き込むと思っていた。現に一学期のときはそうしていた。

 ひょっとして加賀見に心境の変化でもあったのか?

 俺をこれでもかと苦しめていたことを悔い改めてこれからはもうそういうことはしないと誓ったのだろうか。だとしたら俺には僥倖だ。

「だからミユとリンはコイツで遊んできて」

 と思っていたがどうもそういう線はないらしい。

 自分が面倒事を引き受ける傍ら、他の奴らに俺の自由を奪わせるつもりか。しかも「コイツで」って。「コイツと」じゃないのか。

「え、でも……」

「二人が勉強してるのに私達は遊ぶのっていうのも悪いよ」

 安達と春野が申し訳なさそうにする。そこまで面の皮厚いタイプじゃないしなあ、二人とも。

「あ、えーと、どうしよっかな」

 妙な雰囲気になったのを受けて日高が返事に困っている。元は自分の頼み事なんだし、責任感じてるのがありありと見える。


 ここで加賀見が日高に耳打ちする。日高が何やら面白そうと言わんばかりの顔つきになってるな。

「わかった、今回はマユに甘えよーかな」

 さっきまでの煮え切らない態度から一変、加賀見の提案にさらっと乗っかる日高。

 加賀見から何を吹き込まれたか凄く気になる。俺達三人に妙な真似をさせるんじゃないだろうな。安達と春野はいいけど俺まで巻き込まないでくれ。

「マユちゃん何話したの」

 安達も同じ気分だったらしい。

「大した話じゃない。だから気にしない」

 加賀見が安達の肩に手を乗せてそう宣った。そんなんでごまかせるか。

「ふーん……」

 ほら、安達が仏頂面で加賀見をじっと見つめてきてるぞ。

 でも追及しても無駄と思ったのか、これ以上加賀見を問い詰めることはなかった。


 休み時間が終わり加賀見・春野・日高が去った後、安達が先生が来るまでの僅かな間を利用して俺に話しかけた。

「ねえ、マユちゃん何企んでると思う?」

「さあな。一人で日高の勉強を見てその授業料せしめるとかか?」

「マユちゃんそんなお金に汚かったっけ?」

「奴ならそんなキャラでも違和感ないな」

「そんなことな……」

 否定する言葉を出し切らなかった安達。お前の中の加賀見のイメージも大概だな。


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