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第113話 展示会

 第二校舎の四階まで(加賀見も含めて)上がり、一年六組の教室に辿り着いた。

 ここにはお目当ての出し物が催されているはずなのだが、中に受付をはじめ、人が一人もいない。

「あれ、ここで合ってるよね?」

「うん、確かに貼り紙はあるね」

 教室の外の壁にポツンと「六組 展示コーナー」と貼られている。

「展示品は飾ってあるっぽい」

 教室の扉から内部を窺う加賀見が解説した。

 覗くと確かに回廊のように並べられた机の上にポツポツと物が置かれているが、人は誰もいなかった。

 ただ、教室全体に比べてどうもスケールが大きくない。

「どうやら無人で開いてるみたいだな」

「とりあえず、入ってみよーか」

 五人で六組の教室にお邪魔した。


「あ、ここに案内が」

 教室を入ってすぐ右側の壁に、またもやポツンとA4ぐらいのサイズのプリント用紙が貼られていた。何か色々とコンパクトだな、ここの設備。

 案内には以下のように書かれていた。


――――――

 ここには当クラスの生徒達が身近にある「芸術的だと思うもの」を色々展示しております。

 展示品について勝手に観て勝手に楽しんでください。

 但し、持って帰らないでください。


 一年六組 一同

――――――


「……何コレ」

 加賀見が素直な感想を述べた。うん、何だろうねコレ。

 机に置かれた展示品らしきものを観てみる。

 大掃除でたまに見る棒状のウネウネ動かせるモップ。

 ストレス解消でギュッと握り潰せるボール。

 何か最近よく見る洋菓子を置く三段のお皿。

 確かに身近によく見るアイテムが並んでいた。というか自宅にあるような日用品ばっかだった。


 それを観て思う。

 六組の連中、ただ手抜いただけだろ、と。

 女子四人はとりあえずこの教室に飾ってあるオブジェを律儀に観て回る。

「何だろこの山積みされてるの」

「んー……イヤホンの耳に付けるパーツっぽい」

「何でそんなのが大量に……」

「知らん」

 結局、全員三分も持たず出てきました。待ち合わせ場所からこの教室へ移動する時間の方が長かったな。



「次どこ行く?」

「えーそうだなー、やっぱお化け屋敷でいいんじゃないの?」

「どれか一つは行っておきたいよね」

 次行くのはお化け屋敷のどれかになりそうだ。なお、さっきの展示会については誰も何も会話で触れていない。勿論俺も触れるつもりはない。

「でもどのクラスのにする?」

「こっから一番近い奴にしよ」

「マユちゃん……あんま動きたくないだけでしょ」

「当たり前。ここに来るまでも結構歩いたのに」

「校内移動するだけでどんだけ疲れたのさ」

 加賀見の体力的な事情から、最寄りのお化け屋敷に決まりそう。俺にとってはどうでもいい。


 春野は女子達の話し合いには加わらず、

「ね、さっきの出し物って黒山君はどうだったの?」

 と話しかけてくる。意外だな。春野もさっきの出し物をなかったことにするかと思ってたよ。

「六組の連中のやる気のなさが展示品からとてもよく伝わってきてたな」

「あー……ちょっとノーコメントで」

 春野、この場でのノーコメントはもう同意してるようなものだぞ。

「しかし、ああいう出し物もクラスに一つくらいはあってもいいとは思った」

 表現の自由ってものがあるし、別に違法な行為じゃなければあんな出し物も好きにすればいいと思う。

 それにもしかしたらあの出し物に感銘を受ける物好きもいるかもしれないし。


「いい……うーん、いいこと、なのかも、ね」

 春野、別に俺の意見に無理して同調しなくていいからな。

「それはそうと、今日はそのブレスレット着けてるんだな」

 春野の右手首には林間学校で彼女自ら購入していたブレスレットがあった。

「あ、気付いてたんだ」

「そりゃ普段とは違うからな」

 春野がそのブレスレットを付けるのは毎日ではなく、たまーにという具合であった。どういうときに着けてくるのかは知らない。

「そうだね、今日は特別なイベントだから、特別なことしてみようって気分になっちゃって」

 春野はそう語った。


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