「あ、マユちゃん、こっちこっち」
「ん、今日はよろしく」
待ち合わせ場所に加賀見が合流。安達と軽く挨拶を交わす。
このところ、こんな光景がすっかり当たり前になってしまっている。早く一人になりたい……。
「朝から陰気な顔してどうしたのさ」
早速加賀見に突っかかられる俺。
「ん、別に」
面倒なので軽く流すことにした。
「別にってこともないでしょ。よかったら話だけでも聞いてあげるよ」
加賀見が営業スマイル全開で話しかける。声音が普段からは考えられないぐらい優しくなっており、もうそれだけで普段を知っている俺には怪しさしか感じられなかった。気を付けないと全財産とか騙し取られそう。
それからお前の場合、ホントに話聞くだけで終わるよな。何なら思いっきり
「大丈夫だ。この後のバイトで体力持つか心配してるだけだから」
「その設定まだ引っ張ってんの」
バイトの件、完全に嘘だと思われてんな。少しは俺の言うことを信じてくれてもいいんじゃないのか。まあ嘘なんだけど。
「おはよー、三人とも」
「いやー、待たせたね」
春野と日高もやって来た。さあこれから忙しくなるな。どうやって抜け出すか考えなきゃいけないから。
「最初はどこ行く?」
「お化け屋敷でいいんじゃない?」
「どこのクラスの?」
女子四人が文化祭の栞を眺めながら最初に行く出し物のことでわいのわいの話し合っている。
「全部のクラスのお化け屋敷を巡るのも楽しそう」
「えー、そうかな?」
「アンタもそう思わない?」
いつものように俺へ突然話をパスする加賀見さん。こういうのがあるからつくづく気が抜けない。
「俺は特に。寧ろお化け屋敷じゃない出し物の方が少ないみたいだからそっちの方が興味あるな」
お化け屋敷が出し物全体の六割ぐらいを占めてる中、お化け屋敷以外はどうなってるのか少し見てみたい。
「うん、私もどっちかっていうとそんな気分かな」
「私はどっちでもいいよ」
「私もー」
春野・安達・日高と意見が続く。
「それならアンタは最初にどこ行きたいの?」
「うーん、そうだな……」
栞をパラパラとめくって出し物全体をざっと見る。
お化け屋敷の出し物についてはどれもこれもホラーを演出した紹介文や絵が使われているのですぐに見分けがつく。これ実情を知らないと文化祭の栞というかお化け屋敷の情報誌に見えるな。
栞の最後までめくり切ったところでとりあえず目を惹かれたページに戻る。
「ここ、展示会やってるらしいぞ」
女子四人の中央辺りに栞を開いて見せ、とある部分を指差した。
一年六組の方で教室を舞台に展示会を開いているらしい。「来てのお楽しみ」とのことで、詳細は書かれていなかった。
「へー、いいんじゃない?」
「私もいいよ」
「んじゃ、最初はここで」
俺も含めて異論は出ず、そこに決まったわけだが
「アンタが言い出したんだからつまんなかったらアンタ責任取ってね」
「そんなことになったら誰も何もアイデアを出さなくなるぞ」
「え? アンタ以外にそんな理不尽なことするわけないじゃん」
「なあ、俺って一体どういう立場なんだ?」
加賀見の戯言に毎度のことながら反応してしまう。当の本人は自然な感じで笑顔を浮かべていた。
一年六組のある第二校舎に入ったところで加賀見が女子達に話しかける。
「あれ、六組ってことはリンや皐月の隣のクラス?」
「うん、そーだね」
「ちなみに五組って何階だったっけ?」
「四階」
「……私はいいから皆で行ってきて」
「皆、今のマユちゃんの言葉は無視でいいよ」
階段での移動が面倒になった加賀見を即座に刺してくる安達。加賀見が「ミユ、それはちょっと……」と哀れみを感じさせる表情で安達に迫るが安達は気にしなかった。気にしてたらキリがないんだろうな。