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第111話 一日目

 我が校の文化祭こと包陽際は二日に亘って開催される。

 一日目は金曜、二日目は土曜の開催で、翌週の月曜が振替休日というスケジュールだ。

 二日目は休日だけあって例年人が多いらしい。一日目も一般人の入場はできるもののそこまで多くはなく、基本的には生徒だけで楽しむことを主眼に置いているように思われる。


 そんな文化祭の一日目が始まった頃、俺は安達とともに待ち合わせを余儀なくされていた。

 校庭のすぐ近くの方を二人で突っ立っている中、俺は学校に植えられた桜の木々を何となく眺めていた。時期的に当然花は咲いていない。

「いやー、始まったね文化祭」

「おう」

「マユちゃん達も来るのにそんな時間掛かんないと思うけど」

「おう」

「二年三組でやってるコレさ、結構面白そうじゃない?」

「おう」

「……ねー黒山君」

「おう」

「実年齢39歳ってホント?」

「んなわけあるか」

 どこで聞いたんだよ。

「あ、こっちの話は一応聞いてるんだね」

 安達の方を向くと奴がジト目でこちらを見ていることがわかった。



 発端は今朝のグループチャットだった。

「皆、今日はいつ空いてる? 私は一日中平気」

 加賀見から届いたメッセージに対して

「今日はいつでも大丈夫」

「12時までは空いてる!」

「いつでもいけるよ」

 日高・春野・安達がすぐさま返事していた。俺は駄目元で

「今日は仕事があるからずっと無理」

 と送ってみた。その後のやり取りは次の通り。


「黒山君クラスの出し物での仕事ないでしょ」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「何?」

「バイトの方の仕事が今日文化祭終わった後にあってさ、それで」

「なら文化祭の間は空いてるじゃん」

「いや、そうじゃなくて、どう説明すれば伝わるやら」

「だから何?」

「つまりはバイトで体力を消耗するから、文化祭のときは温存しときたいなと」

「私達といると疲れるって言いたいの?」

「黒山君そんな風に思ってたの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

「なら黒山の方も問題ないね」

「そーだね」

「黒山君、楽しみにしてるね!」

「もー諦めなって」


 以上、俺の奮戦の様子がとてもよくわかる会話だったね。約一名全く話の通じない奴が混じってる状況でよく頑張ったよ、俺。



 手持ち無沙汰に周りを見渡してみる。

 校庭の方ではその広い敷地を利用した何らかの出し物が開かれていた。

 文化祭が始まったばかりにも関わらずもう多くの生徒が校舎の外で賑わっていて、外の屋台で早速食べ物を受け取ったり出し物に興じていた。ちらほら笑い声も聞こえた。

 やっぱ皆テンション高いなー。

 基本的には数人でひとかたまりに動いているのが多い。

 二人組で動いているのもいるが、大抵は男女の組合せとなっていた。彼らの関係については推して知るべきだろう。


 ふと安達を見る。

 もう何度同じことを思ったか数え切れないが、コイツに恋人がいたら今頃俺に構っているはずがなく、この文化祭で大いに青春を満喫していただろう。

 惜しむらくはコイツにその恋人を作る気が毛頭ないことだ。

 何とかこの文化祭という特別なイベントの中でコイツ、そして残りの女子三人にそういう関係の相手が見つかってくれないかと思う。

 いや、いっそ俺がコイツらに誰かいい候補を宛がうしかないのか?

 このまま受け身で待ち続けても問題解決する気がしないし、それなら俺の方から候補を探して紹介してもいいのかもしれない。

「……黒山君、妙なこと考えてない?」

「ん、別に。何でだ?」

「いや、黒山君考え事するときいつもそんな感じだから」

 ほー、そうか。でも、妙なことでは全くないぞ。


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