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第110話 明日は

 文化祭の作業は翌日も続けられた。

「うーん、昨日の疲れが取れない……」

「あはは、確かにちょっとキツいかもね」

 昨日と同じく放課後に再開された文化祭のセット作成は、現時点で半分ほど完成し、今日で全て出来上がる見込だ。

 これさえ終われば後は自由の身。当日は何とか加賀見の目を搔い潜って自由を満喫してやりたい。何の対策も考えてないけどそこは当日の俺に期待するとしよう。


 しかしこの作業、なかなかに手間が掛かる。

 昨日は夜遅くまで残ることとなり、疲れの勢いに帰ってすぐに寝た。

 それでも普段よりずっと遅く学校まで残って仕事をするという行為は体に響いたようで、朝起きても疲労感が抜け切らなかった。

「まーでも、今日で終わりだから頑張ってこう!」

 そんな俺とは対照的に安達は何か元気だった。

「お前は平気そうだな」

「えー、そうでもないよ」

 そうでもないよと言ってるお前の姿がもう至って元気に見えるよ。

 昨日の帰りのときは俺と同じくらい疲れてるように見えたのに。アレか、ひょっとしてカフェインと糖分が一気に摂取できるという例のドリンクを飲んでるのか。だからやけにテンション高いのか。

「摂り過ぎは体に悪いから程々にしとけよ」

「……何の話かわかんないけど変な勘違いしてない?」

 あれ、安達さん? さっきまで微笑んでいた表情はいずこに?



 安達や他のクラスメイト達と作っていき、お化け屋敷に必要なセットは全て揃った。

 文化祭の開催が明日に迫っているのもあり、さっさと一年二組の教室内に諸々を飾っていく。

「黒山君、これお願い」

「へーい」

 教室の、少し高い場所にある飾り付けについては主に男子が担っていた。

 俺も安達から手渡された小さい提灯のようなものを教室入口の扉の上の方に設置していく。


 全ての道具の設置が終わり、最後にどっかから借りたと思しき暗幕をクラスメイトの一人が教室の窓に着ける。

 カーテンのようにシャーっと閉めると、教室が暗闇へと様変わりした。

「うわー、ホントに真っ暗」

「これなら財布をスっても顔を見られる心配ないな」

「え、やる気なの?」

 同じく教室に残っていた生徒も暗闇の中をワイワイ騒いでいた。皆テンション高いなあ。


 教室のセッティングがこれにて終わり、クラスメイト達はテンション高いままに解散した。昨日よりは上がりの時刻が早かった。

「ねえ、今日も一緒に帰ろ」

 安達がまたしても俺の隣に付いてくる。頷いた憶えはないが一緒に帰るのは確定らしい。


 昨日の様子とは打って変わって、帰り道の中で安達が俺に話を振る。

「いよいよ明日だね」

「ああ、明日だな。皆既日食が見られるの」

「文化祭! 文化祭の方! あとそんなニュース初めて知ったよ」

「いや、俺もそんなニュース知らないが」

「ああ、全部適当ってことね……」

 安達を左に見ながら、駅までの道路をひたすら歩く。周りは当然暗い。

「明日はマユちゃん、リンちゃん、サッちゃんと一緒に文化祭回ろうね」

「嫌だ」

「ま・わ・ろ・う・ね?」

「……」

「返事は?」

「……はい」

 これ以外の返事は許されていなかった。俺の気分まで今の夜道さながらに暗くなってくる。


 俺の記憶が正しければ俺は安達とも加賀見とも春野とも日高とも、一緒に文化祭を回る約束など一切していない。

 何でそんな約束した憶えのない連中と揃って文化祭を巡らなければいけないのか。

 もうお前ら四人だけで文化祭楽しんでこいよ。そしてナンパでも何でもされて、運命の男性(笑)との出会いでも起こしてくれよ。特にあのツインテールについてはそういう展開を起こしてほしいよ。切実に。


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