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第115話 景品

 俺と日高は二人で栞を広げる。

「そっちは次どこ行きたい?」

「俺は何でも。そっちは?」

「ウチも別に」

 どっちも行きたいスポットは特にありませんでした。

 とはいえお化け屋敷を何回も尋ねる気にはならないのも事実。

「こうなったらスマホで時間を潰すのはどうだ?」

「え、やだよ」

「周りがうるさいなら校舎裏とか向いてる場所あるぞ」

「そーゆー意味じゃなく」

 日高、それなら何でイヤなんだ。


「もー、とにかく適当にどっか出し物見ていこーよ。例えばほら、これとか」

 日高が指差した先には栞に掛かれている二年一組の出し物の紹介。

 何でも一人~複数人用のミニゲームを行い、成功したら景品をもらえるというもの。これもまた文化祭ではどっか一クラスはやってそうなものと言えよう。

「うん、いいんじゃないか」

 俺はどっちでもよかったので、無難に流れに乗ることにする。

「そんじゃ行こっか」

 俺は日高とともに第二校舎の二年一組の教室目指して歩き出した。



 道中、日高が一つ質問してきた。

「ね、黒山はこの文化祭楽しむ気あんの?」

 何のこっちゃ。

「ああ、俺なりに楽しむつもりだぞ」

「いやさっきスマホで暇潰しとか言ってたじゃん」

「あれが俺なりの文化祭の楽しみ方だ」

「文化祭かけらも関係ないじゃん。家でも学校でもできることじゃん」

「何を言う。普段なら授業を受けなきゃいけない時間帯でも構わずスマホをいじってられるんだぜ。何なら本読んだり友達と遊んでても自由だ。そんなの文化祭ならではだろ」

「普段の休みの中でもやれることだし」

 日高が後ろ頭に両腕を組んだ。

「私なら文化祭はできるだけ色んな種類の出し物を回るけどなー」

「まあ、楽しみ方は人それぞれだよな。お前がそれでいいならいいんじゃないか」

 日高がムッとした表情を見せる。ん、何か気に障ったのか。

「とにかく出し物回れるだけ回るよ」

 有無を言わせぬ雰囲気に俺は「おう」と頷いておいた。あれ、日高こんな奴だったっけ。



 一組の教室に辿り着いた俺達は受付から案内を頂いた。

「一人用・複数人用・カップル用のゲームがあるけどどれにしますか?」

 カップル用? カップル用っていうとアレか、昔ならアベックとか呼ばれてたあのカップルのことか。カップルじゃないんだけどね。

「カップルじゃないんだけどね」

 日高が何とも言えない表情をして答える。まあ、普通そうなるよな。

「それぞれ景品が違うから、見てから決めるのオススメしてるよー」

 受付をしている二年の先輩が景品のコーナーを示したので、俺と日高は景品の方へ目をやった。

 失礼だが粗品と思えるものが並んでおり、成功しても失敗してもいいなと思えた。


 そうしていると同じく景品を観ていた日高が突然俺の耳に口を寄せた。

「カップル用挑戦したいんだけど、いい?」

「へ?」

 予想外の言葉が聞こえた。

「それは……どうしてだ?」

「カップル用のゲームにあるあのぬいぐるみ、どうしても欲しい」

 そう言われて改めてカップル用とやらの景品を見る。

 そこには確かに小さいぬいぐるみが置かれていた。俺でも名前には聞いたことがある女性に人気のマスコットキャラクターをモチーフにしたものだった。

 ……日高にその手の趣味があったとは知らなかった。


 引き受ける前に、一応確認しておく。

「でもこれを選ぶと周囲から俺達が交際してると思われるぞ」

 この出し物には今応対している二年一組の先輩達の他に、その出し物にチャレンジしている生徒達も何人か見受けられた。先程の展示会とは異なりそれなりに人の目もあるのだ。

「そうなったら説明して誤解を正せばいいだけだし……」

 俺の耳から離れ、早口でぼそぼそ語る日高の頬が少し赤い。

「あれ、レア物だからこのチャンス逃すともう手に入んないかもしんないんだよ……」

 本人もリスクは承知しているのだが、それでも自分の目と鼻の先にあるあのぬいぐるみを狙いたいのだろう。物欲恐るべし。


「あー、とりあえずカップル用でお願いします」

 さっさと終わらしたかった俺は日高の要望を聞き入れ、カップル用のゲームを選んだ。

「はーい。準備するから待っててね」

 受付が教室内の人達に声を掛ける。

「ゴメンね、付き合わせてさ」

「……欲しい景品取れなかったら諦めろよ」

「そこまでワガママ言わないって」

 ハハ、と笑う日高だったが声の大きさがいつもより控えめだった。


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