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第116話 出てきたらで

「準備できましたー。どうぞー」

 受付の女子が俺達を教室の中へ案内した。そこで受けたゲームの説明は以下の通り。


 1.二人で2メートル近くある箸を一本ずつ持つ。

 2.箸が届く範囲に置かれた景品に対応したボールを二人で協力して、つまんで拾い上げる。

 3.拾ったボールを所定の位置に落とせば成功。対応した景品をもらえる。

 4.チャンスは三度まで。


 というルール。要は人力でやるクレーンゲームみたいなものだ。

 手渡された箸は木製で、先端は普通の箸と何ら変わらず滑り止めの溝が幾つか彫られて横縞を描いていた。こんなのどこで売ってるんだよ。値段も込みで教えてほしい。


「そ、それじゃ、行こ」

 日高、緊張してるな。

 周りの目もあるのかと思いきや、日高はずっとボールの方から視線を反らしていない。自分の欲しい物を本当に手に入れられるかが気になってしょうがないらしい。

 日高が右側、俺が左側に立って例のぬいぐるみの名前のラベルが貼られたボールへ箸を持っていく。

 俺も日高も箸を両手で持ち、ゆっくり動かしていた。そうしないとコントロールが利かない。

 ボールの左側に俺の持った箸が接した。高さはボールの真ん中より少し下の方におく。日高と併せてボールの下の方で挟めば運ぶときに滑り落ちる可能性を少しでも減らせるはずだ。

 続いてボールの右側に日高の持った箸が近づいていった。


 そのとき、日高の手の甲が俺の手の甲に触れた。


「うわあ!?」

 日高が声を上げて手を自分の胸元に引き寄せ、その拍子にボールを掴もうとしていた箸を手放してしまった。

「あ、ゴメンゴメン、ちょっとビックリしちゃって」

 日高はそう言って箸を拾い上げた。初めて見たぞ、日高のそんなリアクション。

「お客さーん、今のはボールに触ってなかったからまだセーフだけど、二人でボールに触ってるときならアウトになるから気を付けてね」

 そう店番の人が注意する。その表情がニヤついてるのがやけに引っかかった。

「あ、はい、わかりましたー」

 日高はそう受け答えした後、うまいこと箸の先端をお目当てのボールに寄せていった。

 彼女も俺の意図を察していたようで、俺と同じくボールの少し下の方、もっと言うと俺とほぼ同じ高さへと箸を寄せていた。

 今度は手元の方も気にしてか、俺の方とはさっきより距離を空けていた。


 さて、これならボールを拾えるかな。

「せーので上げるか」

「うん」

「せーの」

 と俺の掛け声とともにボールを箸で挟んで上にゆっくり上げていく。

 日高の持った箸の動きを観察し、狂いが生じないようペースを調整する。ボールをしっかり掴んでいた。

 そしてそのままゴール地点へ運ぶ。1メートルぐらい左手前へと持っていく作業であり、途中緊張からか日高が箸をやや上下させていたが、俺もそれに合わせて箸を上下左右に動かし、ボールを決して離さないようキープした。

 やがてゴール地点の真上に辿り着き、そこでボールから箸を離した。

 ボールがゴールの床へ落ち、ポーンと跳ねた。


「おめでとー!」

 その場にいた二年一組の人達と思われる生徒達が何人か祝った。



 その後日高はお目当てのぬいぐるみを手に入れニヤニヤしていた。

「いやー、ありがとね黒山!」

「別に」

 あんなの大して難しくなかったし。

「それよりさっきのゲームで誤解が生まれてたらそれを解かないとな」

 多分そんなに実害はないと思うが、周囲から誤解をされたまま生活するのはどうも嫌な予感がする。

「……そうだねー。ま、尋ねてくる人が出てきたらでいいんじゃない?」

 日高がぬいぐるみをギュっと抱き締めた。ホント好きなんですね、そのぬいぐるみ。


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