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第117話 伏せて

 その後日高と俺は二、三ほど他の出し物を見ていった。

 占いとかミニゲームとかだったが、特に可もなく不可もなくという具合だ。


「お化け屋敷以外はほぼ全て回ったな」

「そうだねー……っと」

 俺のスマホが震えると同時に日高が制服のポケットからスマホを取り出した。

「メッセージ来てるね」

「おー、向こうも満足したみたいだな」

 見るとメッセージのグループチャットに「お化け屋敷、もういいや。合流しない?」という加賀見からの文言が入っていた。

「うん、そうしよ! 場所どこにする?」

 日高がメッセージを送り返す。数回のやり取りを経て、今から校庭の第一校舎近くに落ち合うことになった。



 日高と俺が待ち合わせ場所に足を運ぶとミユマユの二人が待っていた。

「おー、悪いね待たせちゃって」

「ん、大丈夫」

「急な集合だったからね」

 ミユマユは日高が遅れたことを気にしなかった。

「でもアンタはダメ」

 だが加賀見は俺が遅れたことを許さなかった。

「何で俺だけ遅れちゃダメなんだ」

「理由なんて必要なの?」

「当たり前だろ」

 理由もなく俺にだけ異常に厳しいとかただの虐待じゃねーか。

「なら今考えるからちょっと待ってて」

「いや、もういい」

 例によって理不尽に虐待されてるだけなのがわかったから。

「そう? なら遅れたお詫びに焼きそば奢って」

「お前まだ食いたがってたのか」

「いや、今はもうそんなに」

「ただの嫌がらせかよ」

「焼きそば分の代金を私にくれるのでもいいよ」

 加賀見が右手をすっと俺の前に差し出した。その手引っ込めろや。

「まあまあマユちゃん、許してあげよーよ」

「ミユがそう言うならしょーがない」

 安達がここで加賀見を止めに入る。ありがたいけど、欲を言えばもう少し早めにやってほしかったです。


「ねえ、そっちは楽しめた?」

 加賀見が日高に向けて訊く。

「あー、うん。ゲームとか結構面白かったよ」

 日高はそう答えるも、自身のお目当てのぬいぐるみをゲットした件は伏せていた。そのぬいぐるみは今鞄の中に丁重にしまわれており、ミユマユは当然その存在に気付いていない。

 コイツ、ぬいぐるみ趣味をこの二人に隠しておきたいんだな。以前の球技大会でも二人に隠し事をして関係がおかしくなりそうだったっていうのに、大丈夫なのかねえ。もっとも、あのときとは隠していた内容の質が全く違うからそんな大事おおごとにはならないとは思うが。


 三人で話しているのを横に見つつ、校庭の方をぼーっと眺めているとまたもスマホが震えていることに気付いた。早速スマホを確認する。

「春野が仕事終わったってよ」

 会話に夢中な様子の女子達に呼び掛ける。

「え? あー、ホントだ」

「あー、そう言えば上がりの時間になってるね」

「これでまた全員集合」

 三人の声が心なしかさっきより活気付いているように聞こえた。



 春野が「いやー、お待たせ!」と俺達のいる場所に駆け付けて合流した後はまた改めて出し物を時間の許す限り回った。

 日高が面白いと言っていたゲームや、ミユマユの勧めたお化け屋敷を回るといった具合だ。

 俺はそうでもなかったが、女子四人は和気藹々とそれらの出し物を満喫していた。

 ただ、日高がぬいぐるみを取った出し物については日高も特に勧めなかったため、五人で改めて回ることはなかった。


 以上の行程によって、文化祭一日目が終わった。


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