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第118話 マーク

 土曜日となり、文化祭が二日目を迎えた。

 一年二組でのホームルームが終わり、各自解散となった。

「じゃ、帰りにまた会おうね」

「会えたらな」

「いや、帰りもこの教室に集合するでしょ」

 安達とは会話を交わした後で別れた。

 昨日はホームルームが終わった直後から俺の隣へ付いて俺が逃げないよう監視してたような素振りを取っていた安達だが、今日は少し事情が違う。

 前もって奄美先輩との用事があることを通達したからな。


 次に記すのは当時のメッセージでの会話である。

「すまん、土曜の方は奄美先輩と文化祭でやることがあって行けない」

「え、そうなの?」

「ああ、奄美先輩からも聞いた。いつ終わるかわかんないんだっけ?」

「私も聞いた」

 加賀見と春野は奄美先輩の連絡先を知っていることもあり、彼女から直接話を受けていたらしい。先輩のこういう手回しの早さには頭が下がる。

「そういうことだ」

「まあ土曜は私と凛華も同じクラスの友達と一緒に行く予定だしね」

「そうだね。じゃあ土曜は各々で回るって感じでいこっか」

「うん」

「わかった」

 各々の事情もあって、土曜の予定は特に女子四人(ついでに俺)で集まらない方針になったのだ。俺以外の事情が絡むと実に話が早い。


 それはそれとして、現在凄く気分が良い。校内にて久しぶりに解放感を味わえたと思う。毎日こうだといいのに、人生はままならないものですね。

 まあこれから奄美先輩と一緒にいるわけだから正確には一人でいられないのだが、それでも四人もの女子と同伴させられるときに比べればどうってことはない。

 それに今回、奄美先輩は基本的に俺と対話する機会は限られる。

 奄美先輩は今回、迷子のフリをして王子に話しかけてもらう。

 その際俺が傍にいては意味がないので当然先輩が一人で臨んでもらう。

 俺の役割はその王子の位置取りを常に把握し、然るべきタイミングで先輩に伝えることだ。


 というわけで俺はホームルーム終了直後から王子をマークしている。

 王子に怪しまれないように注意しつつ、王子とその友達の後ろを尾行している形だ。

 文化祭中の校内であれば最初から結構人が多いのでそれなりに紛れやすい。

 ……何か一学期のときも春野に対して似たようなことをした気がする。何で俺こんなことしてんだろう。

 そんな思考が頭を過るが、今は忘れろと視線の先の王子の動向に集中した。


 願わくば、今回の作戦で奄美先輩には王子との距離を確実に縮めてほしい。

 奄美先輩との関わりが女子四人の関わりへ影響しなくなった以上、奄美先輩との関わりは最早俺にとって負担でしかなくなってしまった。

 今日は奄美先輩との用事が奏功して女子四人と一緒にいなくて済む状態にはなっているが、言わば偶然の要素も大きい。

 文化祭が終わればまた女子四人との日常が待っていることだろう。

 そして放課後には奄美先輩と作戦を練る時間がやってくるのだろう。

 今回の作戦が成功すれば、奄美先輩と俺が関わる理由は解消される。

 それだけに俺も作戦の成就には力を入れていた。

 大丈夫、きっとうまくいくはず。

 作戦の成功をひたすら心に念じつつ、王子から決して目を離さないようにしていた。


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