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第119話 優先順位

 王子達の動向を追って30分ぐらいが立った頃、彼らが第二校舎へ入っていった。

 王子達と一緒に行動しているメンバーについて男子は3人、女子はいない。女子がいると奄美先輩にとってはかえってややこしい事態を招く恐れもあったので好都合と言える。

 例の告白から時間が経って噂も過ぎて王子の周りはまた元のような活況が戻ってきていた。

 仲の良い男子の他に女子が二組の教室へ遊びに来る光景も時折見かけたのだが、心なしかその頻度は告白前より少ないままにも思われた。

 それでも未だに女子からの人気があるにはあるのだからイケメン恐るべし。

 奄美先輩もライバルが多い状況で戦わなければならないので、相当苦労の多い恋路である。


 そんな奄美先輩に協力をしなければならない俺も決して他人事ではない。

 王子が他の女子と結ばれたときに奄美先輩がきっぱりと諦めてくれるタイプならまあいい。

 その場合俺はお役御免となり、奄美先輩の作戦に付き合う理由が消滅する。

 だが奄美先輩が諦めきれずに王子の交際相手から王子の心を奪う、要は略奪愛みたいなことを仕掛ける意向なら事態はひたすら面倒になる。

 そうなると到底成功する気がせず、仮に成功してもとんでもなく厄介な展開が待ち受けていることが目に見えている。

 そのときに付き合い切れないと抜けられるなら勿論抜けたいのだが、恐らく加賀見がそれを許さないだろう。「どうぞこき使ってやってください」と奄美先輩の前に俺を引きずり出して最後まで俺を巻き込ませること間違いなし。外道この上なし。

 奄美先輩が王子と他の女子の交際を見たときにどう対応するつもりかは確認していない。そんなネガティブな質問を先輩相手にできるわけもない。

 だからこそ俺としては楽観せず、少しでもマシな結末になるように王子と奄美先輩を接近させたい。他の女子が王子を射止める前に。


 さて、今回の文化祭で行う作戦では彼らが第二校舎に入ったとき、奄美先輩も同じく第二校舎へ入り昇降口近くの広間でたたずむ段取りになっている。

 舞台を第二校舎にした理由はそこに奄美先輩の属する二年五組の教室があり、奄美先輩が迷子を装う際に他の校舎に不慣れな印象を少しでも持たせるためだった。

 一定の時刻までに第二校舎にそもそも入らなかった場合は他の校舎、もしくは校庭など別の場所に予定を変更するという方針だ。そのためにも俺が王子達を行く先を常に把握しておくのは不可欠だった。

 ともあれ作戦が当初希望した通りに進んだことを確認した俺は、奄美先輩宛てに

「榊達が第二校舎に入りました」

 とメッセージを送った。


 メッセージを送って3分経つが、未読のままだ。

 あまり時間が経つと王子達が第二校舎を出てしまう恐れが強いのでメッセージの通話機能で奄美先輩に電話を掛ける。

 しかし、奄美先輩が通話に出ることはなかった。あれ、どうしたんだコレ。


 思い返すと今日はまだ奄美先輩とやり取りした憶えはない。

 奄美先輩の方は作戦の手筈通り俺の連絡をどこかで待機しているものとばかり思っていたが、それについて裏を取ってはいなかった。

 ひょっとすると奄美先輩が体調を崩して本日休んでるかもしれない。

 となれば言うまでもなく今回の作戦は破綻である。


 ……ちょっと探してみるか。

 それをすれば無論王子を見失う。

 見失うということは王子の行き先が掴めなくなり、奄美先輩と会わせることが困難になる。

 必然的に彼らがどこにいるのか探し直しになってしまうだろう。

 しかし、奄美先輩が今どこにいて何をしているのかわからないことにはそもそも作戦を続行できない。

 奄美先輩の所在を確かめる方が断然優先順位が高いのは明白だった。

 スマホをしまった俺は、ひとまず外から探すべく第二校舎を出た。

 ついでに奄美先輩が今第二校舎にいて、王子と鉢合うというベタなラブコメっぽい奇跡に僅かながら期待しておいた。


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