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第120話 探す

 まずは校庭の方をざっと回る。奄美先輩はいなかった。

 第二校舎を一通り回る。奄美先輩はいなかった。

 第一校舎を一通り回る。奄美先輩はいなかった。

 手当たり次第に奄美先輩のいそうな場所を当たっていき、第三校舎へ入っていった。

 そこで一階、二階、三階と移動していくが、まだ奄美先輩は見つからない。


 やっぱりただの休みなのか……。

 それなら俺に連絡の一つでもしてほしいものだが……いや、だとしてもメッセージが読まれていないのは変だな。

 例えば体調を崩してベッドの上にいるとしてもスマホを見たりするだろうし、そのときにメッセージが来ることには気付くと思う。

 そのときに来るメッセージの内容は俺が遂行している作戦の状況なのは察しが付くはずだし、奄美先輩がそれを無視するなんて考えられない。


 だとしたら奄美先輩のスマホが故障している?

 いや、故障なんて大それたものじゃなく単純に充電が切れてるだけかもしれない。

 あと奄美先輩がメッセージを見てない理由を推測するとしたら、スマホを見る余裕がないぐらい切羽詰まった状況に見舞われているか……。

 ダメだ、考え出すとキリがない。


 こんなとき奄美先輩の友人のように彼女をよく知っている人に話を聞ければ手っ取り早いが、如何せん俺は奄美先輩の交友関係をほとんど知らない。

 当然奄美先輩のことを尋ねる伝手などありはしない。

 せいぜい俺と奄美先輩の共通の知人として春野と加賀見がいるぐらいだが、奴らが奄美先輩の所在を知っているわけもないだろう。

 春野と加賀見も奄美先輩と常日頃一緒に遊んでいる仲というわけではなく、俺の知る限りでは奄美先輩との関係は俺よりも希薄だ。

 もし奄美先輩が今回の作戦に関与もしてない奴らに自分の状況を話しているなら、俺にもとっくに同様の連絡がいっていい。何せ作戦の真っ最中なんだし。


 奄美先輩の所在についての推測を頭の中で走らせながら第三校舎を出ようとしたとき、その人の姿を見つけた。

「奄美先輩、どうも」

「あら、黒山君?」

 奄美先輩は第三校舎の昇降口近くに立っていた。片手には本を手に持っていた。

 さっき第三校舎に入ったばかりのときは見かけなかった。歩いていた方角からして第三校舎から外へと出る最中だったのだろう。

 一気に身体じゅうを纏う妙な強張りがほぐれていくような感覚を味わった。

 とりあえず奄美先輩が今日休みじゃなくてよかった。これで作戦を続行できる。


 当の先輩は意外と言わんばかりの表情を俺に見せつけていた。

「榊君を追うって話じゃなかったの?」

 ええ、最初はその話の通りに追いかけてましたよ。

「奄美先輩にメッセージで第二校舎に入った件を伝えようとしたんですが、連絡がつかなかったので奄美先輩を探しに来ました」

「え?」

 奄美先輩が制服のポケットを確認する。そう言えばそこからいつもスマホを出してたっけな。

 奄美先輩がポケットに手を突っ込んで数秒後、見る見る血の気が引いたような面構えになっていった。ああ、もう大体どういう事情かわかりましたよ。

「え、えーと」

 奄美先輩がやがておずおずと話し出す。

「教室の方にスマホ、置いてきちゃったかも……」

 でしょうね。


 大方作戦を決行する前の気晴らしにその手にお持ちの本でも読んで時間を潰そうとしたんでしょう。

 教室は出し物で使用中だから適当な校舎へ移って、適当な場所で読書を楽しんでいたんでしょう。

 その結果スマホがなくても今の今まで気付かず、俺の送ったメッセージも知る機会がなかったと。

 知ってしまえば何のことはない話でした。


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