春野と遊んだ翌日。
安達、加賀見、春野、そして電話口のみの対応ながら日高が続くとなるとこの流れは
「胡星先輩、今から遊びに行きますね」
うん、そうだね、葵だね。
「俺が忙しいかどうか聞かないのか?」
「あ、すみません、忘れてました。胡星先輩、暇ですよね?」
いやお前、他人に対して暇を前提にものを聞いてくるのって失礼だろ。暇だけど。
「別に暇じゃない」
とりあえず嘘を投げてみる。
「あー、そうなんですか。それでは遊びに行きます」
すると相手の予定を確認する意味が全くない予告が返ってきた。この後輩、言葉が通じるのか不安になってくるよ。
「ちゃんとメッセージ読め。暇じゃないって書いただろ」
「あれ、以前胡星先輩の嘘はわかるとお伝えしませんでしたか?」
あー、何かそんなの聞いたな。
眉唾だと思ってたがまさか本当にそんなマネができるのか。
「40分ぐらいで着くと思うんでよろしくです!」
かくして今日は奄美さんのところの妹さん、略して奄美妹と遊ぶことになったよ! でも本人はこの呼び方を嫌ってるから葵と呼んであげてね!
40分ぐらい後。
「お邪魔しまーす」
という挨拶とともに家に上がる奄美妹こと葵を出迎えた。ここいらで「邪魔するなら帰れ」とベタなことを言ってみたらどうなるだろうという考えが頭を掠めたが普通に○されそうなのでやめた。○の中身? 自分で考えてね。
「この暑いなか元気だな」
ほれ、と俺は葵に濡れタオルを差し出した。氷水で急いで冷やした一品だ。
「おお、ありがとうございます! 助かります」
そりゃ俺も以前葵から借りたこれに助けられたからな。
本当は春野にも昨日遊びに来たときに同じようにタオルを渡すべきだったんだろうが失念していた。春野には申し訳ない。ミユマユ? 申し訳ないなんてかけらも思わないけど何か?
葵は濡れタオルを顔や腕にそっと押し当てた。
「うわー、冷たい」
汗を拭き取ることより涼むことを優先しているようだった。
「要らなくなったら片付けるぞ」
と手を差し出したら、
「あ、大丈夫です。もうちょっと使いたいんで」
葵はやんわり断った。
「すぐぬるくなるけどいいのか?」
「いいんです。それとも先輩、私が使ったタオルが欲しいんですか?」
うわあ、と言いつつニヤニヤしてる目の前の後輩の情緒がよくわからないがとりあえず否定する。
「いや別に。それと欲しいっていうならとりあえず俺のことは一人にしてほしい」
「……初めて会ったときから少しもブレないですね、貴方は」
え? 葵との初対面でもこんな調子だったっけ俺。こんな調子だったわ。
そんな心和むやり取りを経て俺達は部屋に入った。
「それでですね、今日は相談したいことがありまして」
「ほう」
どうやら真面目な話をするつもりらしいな。
「残りの夏休み、胡星先輩とどのデートスポットに回ろうか決めたいんです」
あ、クッソどうでもいい話だった。
とりあえず、それならまず重要な事実を突き付けないとな。
「なあ、葵」
「何ですか」
「俺は今手持ちの金がほとんどないんだ」
「え」
え、て言われても。
ちなみに冗談ではない。
この夏休みに入ってからというもの、葵も含めた女子達に連れ回されて外出に度々付き合い、さらには奄美先輩のプレゼント代まで負担した。
それらの出費が重なれば今月の小遣いどころか貯金まで
と、葵が未だに無言で俺を落ち着かない様子になりながら見てくるのでとりあえず事情を聞いてみよう。
「どうした」
「あ、いえ。何かすみません。胡星先輩ってもっとお金持ってるイメージありました」
「なぜ?」
いやホントに。ここら周辺にありふれた一軒家の、これまたありふれた間取りの部屋を
「何か胡星先輩ならその人間とは思えないハイスペックでスゴいバイトをバリバリこなして稼いでるんじゃないかなー、て」
「俺を地球人扱いしてないな?」
「いや、さすがにそこまで失礼なことは」
「なぜ目を逸らす」
「太陽の光が眩しかったんでつい」
「俺の後ろから日光なんて差してないぞ」
何だろう、この急場しのぎのごまかしっぷりに既視感がある。
俺なんてごく普通の一般人だってーの。
それにバイトで稼いでるというならお前の姉君の方がよっぽど疑わしいわ。明細は教えてくれなかったけど欲しいものは大体自分で買ってるなんてなると、学生どころか社会人並の報酬を受け取ってるんじゃないのか。お金を
「というわけで、行けるとしてもあと1回ぐらいまでだ」
本当は場所にもよるが後2~3回は外出できる余裕はある。あるが、さすがに文無しになるのはゴメンだった。
「なるほど……となれば花火大会は大丈夫ですか?」
ああ、そう言えばあったなそんなイベントが。