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第244話 口を挟めない

「日高からメッセージだな」

「え?」

 簡潔にスマホの通知の内容を伝えたところ、春野が首を傾げた。

「何て書いてあったの?」

「今確認する」

 メッセージのアプリを開いている間に、春野が俺の方へ寄ってきて俺のスマホを覗いてきた。


「何だ、そんな気になるのか?」

「あ……ゴメン、失礼だったよね」

 他人のスマホを見ることがプライバシーの侵害だと気付いたか、春野はすぐに俺のスマホから首を引っ込めた。

 俺としては別に構わなかったが送信元の日高にとっては春野に内緒でやり取りしたい内容かもしれず、俺の口から軽々に「別にいいぞ」とは言えなかった。


 改めて、日高からのメッセージを読む。

「黒山、今って暇?」

 ちょっと驚いた。

 こんなメッセージをよこすってことは日高は春野が俺の家に遊びに行ったことを春野から聞かされてないのか。


「俺が今暇なのか聞いてるな」

 これなら正直に話しても問題あるまいと春野に日高のメッセージを伝えた。

「そうなんだ」

「春野が遊びに来てる、て返すか」

「あ、ちょっと待って」

 と春野が俺に腕を伸ばして制する。


「……いや、いっか。やっぱそのまま言って大丈夫だよ」

 何だそりゃ。

 一回止めておいてやっぱりいいよなんて言われても今度は俺の方がそこはかとなく不安にさせられるぞ。

「ホントにいいんだよな?」

「うん」

 ということで日高に春野と遊んでいる旨を返した。


 すると

「え? 凛華が?」

 と日高から確認を求める内容が。

「ああ。何も聞いてないのか?」

「うん。凛華がどっかに出掛けるとは聞いてたけど」

 妙に日高が掘り下げてくるが、本題はそこじゃないのでは。


「俺に何か用だったか?」

「あ、うん。暇だったら遊びに行ってもいいかなー、て思ったんだけど」

 またしても遊びの用事か。日高といい春野といい友達一杯なのに何で俺を選ぶんだ。基本的に誰かと遊びたくない男とか明らかに不適切だろ。


「今俺の家に来れば春野と三人で遊べるが」

「あー、それならいいかな」

 日高がやけに遠慮がち。どうした? 春野の邪魔になりそうな気でもしたのか?


「今何のやり取りしてる?」

 何か暇つぶしするわけでもなくじっと俺の様子を見ている春野が状況を尋ねてきた。

 お菓子もコップも何ら持つことなく、春野の両手が床に着いていた。

「こんな感じ」

 説明が面倒なので一連のメッセージを春野にお見せした。


「……ちょっと、電話いいかな?」

「どうぞ」

「ありがとう」

 と春野が自身のスマホを手に取ってちょっと操作した後、耳に当てた。

『凛華?』

「皐月、ちょっといい?」

 通話の相手は日高のようだ。うん、まあ察してた。今の会話の流れで日高以外だったらむしろ怖いぐらいだった。


『あー、うん。何?』

「ちょっと黒山君にお願いして、今メッセージ見せてもらったんだけど」

『あーそうなんだ。いやー、凛華が来てるって聞いてビックリしちゃった。どうしたのさ』

「友達だし、家もこの前知ったばかりだからさ。一回遊びに行ってみたくなっちゃって」

『へー。じゃあ私と一緒じゃん』

「え?」

 春野の通話は今スピーカーモードにしてるわけではないのだが、個室で他に物音もしない空間の中だと日高の声もバッチリ俺の耳に届いている。


 春野はそれを知ってか知らずか、俺に構わず話を続けた。

『いや私もさ、ちょうど凛華と同じことを考えてた、て感じでね』

 ほう、それは奇遇だな。似たようなタイミングで似たようなことを思い浮かべるのは似たような場所と時を過ごした幼馴染のせる業か。


「……あーそうだったんだ。ゴメン、先に話せばよかったね」

『あー、別に大丈夫大丈夫。でも凛華がお邪魔してるようじゃ黒山にも悪いし。また日を改めるよ』

 いや、こちらとしては同じ日に集まってくれた方が都合がいいのだが。

 とは言え俺の部屋で遊ぶとなるとやや窮屈か。昨日のミユマユが来たときもそう感じたし。


 それに、春野が日高も呼ばなかったこともやはり引っ掛かる。

 春野が日高に詳しく話さなかった理由はよくわからんが、それが春野の都合によるものなら俺が「日高と一緒の方が都合がいいぞ」と言うのも憚られた。

 これが加賀見や葵なら遠慮なく言えたのに、何とも具合の悪いこと。


「そっか、わかったよ。じゃ、またね!」

『うん、またー』

 と、通話が終わったようだ。


「あ、何か私と皐月がゴメンね」

「いや、いい」

 お前らにとっても偶然で、悪意があったわけじゃないんだろ。

 大した迷惑でもないし、別にいい。


「で、この後どうする? ゲームの続きでもするか」

「あー、そうだね……。ちょっと今日はそろそろ失礼しようかな」

 春野の声が電話する前よりも大人しくなっていた。

 今しがたのやり取りで気分が白けてしまったのだろうか。確かに仲良い友達とさっきみたいな会話をした直後では誰かと遊ぼうというモチベーションを保とうとしても少ししんどいかもしれない。


 春野と日高の問題であり、基本的に口を挟めない俺は

「そうか、わかった」

 と送り出してあげることにした。決してその方が俺の都合がいいからとかじゃないよ。あくまで春野の気持ちに配慮してのことだよ、うん。


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