ミユマユが帰り、ベッドの上で疲れを癒していたときに
「ちょっと今いいかな?」
と春野からダイレクトメッセージが入った。
「どうした?」
「明日か明後日で、一緒に遊びたいなと思うんだけど」
「日高達とどっかに出掛けるってことか?」
「いや、二人で」
最初は誤字かと思った。
「二人?」
「うん、場所はどっちかの家でいい?」
春野からの誘いに、俺は少し考えた。
春野と二人きりで行動したこと自体は今までも何度かあったが、それは帰り道や休憩時間のときにたまたま二人だけになった、もしくは植物園のときのように日高の仲介があったときぐらいだ。
今回のように日高の仲介もなしに春野から二人になろうと持ち掛けるのは初めてのように思った。
しかも今回はどっか遠出するわけでもなく、家の中でとのこと。
夏休み始めの辺りで安達が一人で俺のところに遊びに来たときは何やら相談したいことがあったからという話だった(結局安達は相談を見送っていたが)。
春野も、日高には内緒で何か相談したいことがあるのかもしれなかった。
そこまで考えて俺は
「ああ、明日、俺の家にするか」
ということで了承した。
「ありがとう! よろしくね」
春野はそうメッセージを返した。
正直、他の奴らなら断っていた。
しかし、春野についてはこれまでの経緯が経緯だからどうにも強く出られなくなっていた。
このままだと将来あんまりいいことにならなそうなのは認識しているが、この姿勢が長く続いてしまっていることもあって自分から変えるのがどんどん難しくなっているのがもどかしかった。
翌日のこと。
「お邪魔します」
「ああ」
春野が少しソワソワしている様子ながらも俺の家に上がってくる。
その姿は、いつかの日高とのお出掛けの際に見た派手な格好であった。
「その服気に入ってんのか」
「え、あ、まあね」
服のことに言及した途端に春野が顔を赤らめる。気に入ってる奴の素振りじゃないと思うぞそれは。
会話もそこそこに春野を俺の部屋に入れた。
春野がドアを閉めたのを確認し、話を切り出すことにした。
「えーと、春野」
「うん」
「二人でってことだが、何か相談したいことがあるってことか?」
「へ?」
ん、何その想定外の質問にぶち当たったときのリアクションは?
「いや、人の耳に入らないような場所で一対一での用事となると何か大事な話でもするつもりなのかと」
「あー、そういうこと」
春野が口の前に手を持ってきてフフ、と含み笑い。
「別にそういうんじゃないよ。こうして黒山君と二人で何かして遊ぶのってしたことなかったから、一度やってみたくて」
どうも俺の予想とは違っていたらしい。
そしてこの調子だと日高の差し金、いうわけでもなさそうだな。日高に何か言われて来たならコイツの性格上、隠し切れないだろうから。
春野の意図を確かめられたのはいいのだが、それはそれで別の問題が。
「遊びたいと言ってもこっちにはテレビゲームとかトランプぐらいしか置いてないぞ。カラオケとかムリだ」
「毎回必ずカラオケしたいわけじゃないから安心して。ならトランプで何かやる?」
というわけでとりあえず俺は棚からトランプを引き出した。
ひとしきりトランプやら他のカードゲームで遊んだ後。
「このお菓子美味しいね」
「そうか。選んだのは母親だからぜひとも母親にお礼言ってやってくれ」
「そーなんだ。わかった!」
春野が先程母親の持ってきたお菓子を口に付けた。
遊んでいる間はそちらに集中していてお菓子に目が行かなかったらしい。
「……」
春野がお茶の入ったコップを手に持ってじっと見ている。
コップにはストローが刺さっており、さっき春野はそのストローを遠慮なく使っていた。
「ストローってさ」
「ん?」
「二人分のが繋がってるやつあるよね」
何の話だ、と思ったが少しして思い当たった。
「カップルが使うのを想定した、ハートを真ん中に形作ってるようなタイプか」
「そーそー! アレって実際やってみると使いづらくないのかなー、て気になっちゃって」
「さあな」
そんなこと全く考えたことないんだが。
そもそも実物なんてあるのか疑ってるレベルだぞ。マンガやアニメでも今時描写しないんじゃないの。
「ちょっとこれで作って試してみる?」
春野がコップからストローを引き上げた。
俺のコップにも同様のストローが刺さっている。まさか春野と俺の分を合わせてカップル用のストローを作ってみようという魂胆だろうか。
「いや、ムリだろ。ストローバキバキになるだけだ」
春野がこんなアホな提案したことが驚きだが、とりあえず指摘しておく。
「だよねー。ちょっと言ってみただけ」
春野がストローをコップに戻した。
春野がお菓子を食べ終わったところでまた話を切り出した。
「ところでさ、こうやって二人で遊ぶのってやっぱ新鮮だね」
「俺は昨日味わったばかりだけどな」
「え、昨日?」
「安達と加賀見がウチに突然やって来てな。二人から聞いてないのか?」
「いや……」
そうなのか。やっぱあの二人はアレか? 二人の間でしか情報共有してないのか?
「二人と何かあった?」
何だそれは。
「今の俺達と同じようにカードとかテレビゲームで遊んで帰っただけだが」
「あ、そうなんだ」
春野はそこで会話を切り、口から手に移していたお菓子をまた食べだした。
そのとき、俺のスマホに通知が入った。
「ん」
「何だろね」
スマホの画面を開くと、そこにはメッセージの新着通知が表示されていた。
日高からの、ダイレクトメッセージだった。