「えーと……どういうこと?」
安達が詳細な説明を求めてきた。
なぜか発言者の加賀見でなく俺の方に。
「いや俺に聞かれても。加賀見に聞いてくれよ」
「黒山君の話なんだから黒山君が一番知ってるでしょ」
「加賀見が嘘を付いてる可能性は考えないのか」
とまで言ってからようやく安達が加賀見に向き直る。
「そうなのマユちゃん?」
「前に私が黒山と葵の三人で水族館に行ったって話、覚えてる?」
「うん」
加賀見、安達にそんな話をしてたのね。
「そこで黒山が葵と手を恋人繋ぎしてた」
「!」
ああ……あったな、そんなこと。
いやうん、加賀見のさっきの発言ってひょっとしてそのことを指してたのかとも頭を過ったが、ドンピシャだったな。予想が当たった記念に何かくれないかな。というか二人とも帰ってくれないかな。
「マユちゃんはこう言ってるけど」
「葵の方からやった記憶はあるな」
確か加賀見と葵にもっと仲良くしてはどうかと(俺のために)提案したら、どのくらい仲良くしたらいいのかを葵が俺に確認するためにやったとかいう経緯だった気がする。あれ、当時の状況を整理してみても意味がよくわからんな。改めて振り返ると何であんなマネしたんだアイツ。
まあでもあのときの葵の調子からして、俺や引いては加賀見をからかうためにやったというのが真相だろう。
「俺らをからかうためにやった冗談みたいなもんだろ。そんな色気付いたもんじゃねぇさ」
と、俺の見解を述べた。
「ふーん……」
「……当時の葵の様子を見ても、そんな感じは否定できなかった」
加賀見も葵に対して俺と似た感想を持っていたようだった。まあやっぱからかいの類だよな、アレは。
それにしても今のやり取りから思う。
以前日高も言及していたように、ミユマユは俺達を交えず二人きりで遊ぶことがしょっちゅうになっているようだ。
お友達の多い春野・日高と違い、ミユマユがまともに交流あるのは俺・春野・日高・奄美姉妹を除いて他にいないため当然の成り行きなのだろうが、学年が上がっても新しい友達を作ろうとしないのはこの二人の仲の深さと無関係ではないだろう。二人にすれば他の友達は特に要らないとも取れた。
それ以前に二人は人間関係の構築に消極的だから、なおのこと二人の繋がりは互いに重要なものとなっていてもおかしくない。
そんな二人だから、基本的に隠し事はしないのだろう。
二人が相手のいないところで起こった些細な出来事でも頻繁に情報共有していて、それを話の種にしていてもおかしくない。
それこそ俺はもとより春野・日高・葵が知らない安達と加賀見のプライベートな事情であっても互いに詳しくなっていても何ら不思議なことはないのだ。
だとすれば、安達は先日俺の家に来たときに何を相談したかったのだろう。
俺なんかより加賀見の方が遥かに仲良いのだから、悩み事があれば加賀見に相談する方がよっぽどいい。
ひょっとして加賀見と気まずい関係にでもなったのかとも考えたが、今の二人を見る限りそんな変な雰囲気はなく学校の教室でも見慣れた親しさが窺える。だから多分違う。
……少し物思いにふけってしまったが、これ以上は考えても仕方がない。
「ま、いいや。それより次何して遊ぶ?」
安達はこれ以上加賀見からの話題に興味を持つこともなく、さっさと遊びを再開したがった。
「……そう」
加賀見はそれだけ呟き、安達の方を見ていた。
「そうだな……人生ゲームとかどうだ?」
「お、面白そう!」
「セットは黒山の部屋に置いてんの?」
「いや、セットは特に置いてないが」
「へ?」
「それでどうやって遊ぶの?」
「ほら、脳内将棋ってあるだろ。あれの人生ゲーム版で」
「できるか」
「盤面のイメージを皆で一致させるところから無理があるよ」
「あとは脳内RPGだな」
「脳内だけで完結させようとするのやめない?」
「何でだ? うまくいけばVRとかよりよっぽど自由が広がるぞ」
「私達と直接遊びたくないための方便なのが見え見えだから」
うそー……。結構ヒット抜けた方法だと思ったのに、これでもバレちゃうのか。
「そんなに動きたくないならいい遊びがある」
「何⁉」
早く教えろよ。そしたら一も二もなく飛び付いてたよ。
「まず黒山の腹の辺りに的を描きます」
ん?
「次にダーツを私とミユの二人分用意します」
あれ?
「んで、黒山に描いた的へ狙って私とミユがダーツを投げます」
「おいおいおい」
「あ、黒山は動かないで大丈夫。むしろダーツがどこに命中しても動かないように」
え、何それ殺人予告? 腹以外の体のパーツにも当たること前提になってない?
安達も止める気配全然ないし。何この鬼畜コンビ。あ、ミユマユか。ファンが一人も付かないことで評判の。
「それじゃさっそく絵の具を……」
「すみません、他の遊びにしましょう。それで私めもよろしければ参加しとう存じます」
加賀見が俺に的を描く準備をしようとしたところで俺の方から懇願。懇願と言っても心に思ってないことを相手に乞いているわけだが。そんなことってあるんだ。
「だってさ、ミユ」
「黒山君がそこまで言うならしょうがないか!」
あれ、ひょっとして今この場では安達さんが一番目上? 知らなかった。