奄美先輩の誕生日祝いも無事に済んだ数日後。
「やっほー、元気してた?」
「元気そう。よかった」
俺の方は相も変わらず無事じゃなかった。
状況を説明すると安達と加賀見、通称ミユマユが俺の家、というか部屋に上がり込んできた。
事前に約束もなく、それはもう唐突に。
以上。他に説明することなんかないよ。
「何を勝手に元気って決めつけてんだ。そして何でお前らは遊ぶ約束もなしに人の家へ勝手に上がり込むんだ」
一応二人の非常識さにツッコんでおく。
もうムダなのはわかり切ってるんだけど、こうでもしないと俺の気持ちが収まらない。
「え、昨日ハガキで連絡したんだけど」
「ちょっと待て。メッセージじゃなく?」
インターネットもスマホもすっかり普及して、無料通話アプリの利用が当たり前になったこの時代に? ハガキ?
「あ、ゴメン。ポストに出し忘れてた」
加賀見がカバンから一枚の紙切れを取り出した。うん、本当にハガキだね。
「出し忘れどころか表も裏も何も書いてないみたいなんだが」
言い訳にしても中途半端過ぎるだろ。もはやおちょくってるだけだろ、お前。
「あーうん。もういろいろ忘れてたみたい」
「もーいーじゃん黒山君ったら。細かいこと気にし過ぎなんだよ一々」
加賀見の開き直りの域に達した発言に乗せて、安達があたかも俺の方が間違ってるような物言いをしてきた。うん、こういう二人だもんね。二人が出会ってから俺にはず~~~~~~っとこんな調子だもんね。僕もう疲れたよ。
「あーわかったわかった。俺は横になってるから二人で好きなだけゆっくりしててくれ」
いそいそとベッドの上に戻ろうとしたところ、
「いや黒山と遊びに来たんだけど」
加賀見がすかさず俺の手首を掴んできた。それはもうガシッとね。
「今日は黒山君の部屋の中でさ、ゲームとかして遊ばない?」
安達がそう誘う。
「残念だがルール知ってるゲームが一つもなくてな」
「テレビゲームとかトランプとかで散々黒山と遊んだ記憶あるんだけど」
「……? すまん、一体何の話だ?」
「心当たりないかのような反応やめて。どうせ演技でしょ」
「多分だけど別の誰かと勘違いしてるんじゃないか」
「紛れもなく黒山君のことだよ」
「全く記憶にないな……。そう言えばお前ら一体誰なんだ」
「いい加減にしろ」
何もかも忘れてるフリしたら加賀見が睨んできた。あ、安達もだ。
「あーもう。それじゃ何して遊ぶんだ?」
切りがないので遊びに付き合うことにするよ。そしてさっさとお引き取り願うことにするよ。
「黒山君が希望する遊びがあれば優先するよ」
「おおそうか。それじゃ皆で一番早く寝られるのは誰か競争でも」
「あ、言い間違えちゃった。マユちゃんが希望する遊びがあれば優先するよ」
俺の希望を話し終えるよりも早く前言を訂正する安達。何で「黒山君」と「マユちゃん」を言い間違えるのかな。合ってるところ最後の「ん」だけなのに。
「それじゃとりあえずこれ」
加賀見がカバンからまたもや新たなアイテムを取り出した。ウ○か。用意いいな。
「一応ウチにも同じのあるんだが、加賀見の持ってきた分を使っちゃっていいのか?」
「うん、平気」
「持って帰るの忘れないでくれよ」
「平気。多分」
「そこは自信持てよ」
加賀見の私物って邪気を吸い寄せそう。そんな呪いのアイテムを自室に置かれるとか勘弁して。
遊び始めてしばらく経つと、母親が飲み物とお菓子を持ってきてくれたので一旦中断して食事に入った。
「黒山、ミユ、ちょっといい?」
加賀見が質問したのはこのときだった。
「ん?」
「どうしたの?」
「この前二人で遊びに行ったって話してたけど、そこで何か面白いことあった?」
ん?
「別にどうもしないが」
「何で?」
「二人で遊ぶって珍しかったから。それなら何か珍しいこと起きてるんじゃないかって」
加賀見がストローでリンゴのジュースを啜る。
部屋の床にペタリと膝を付けて座りながらジュースを飲む様は、同い年の高校生とするには幼く見えた。
「うーん、黒山君も言ったけど、特に変なことなかったよ? 黒山君の部屋に遊びに来た後は、とりあえずアルコに移動して、フードコートで御飯食べたぐらい?」
安達が当時の様子を思い出すべく、腕を組みながらゆっくりと説明していく。
正直俺も当時のことと言ったら今安達が話した通りのことしか思い出せない。
言い換えればそのぐらい変哲もない日だった。
「へー……」
加賀見がストローから口を離してただぼやく。
いかにも面白いことが起きてほしかったみたいだが、日常生活において面白い出来事などそうそう起こるはずがない。加賀見ぐらいイカれた存在の日常なら別だろうけどさ。俺や安達みたいな普通の人間を
「それは意外。この前黒山は葵と恋人みたいなことやってたのに」
「え!」
加賀見がいきなり発した意味不明な言葉に、安達はたいそう驚いた。