第33話
無風の防音の放送室にカリカリとシャーペンの走る音がする。折原朔也は椅子を机代わりにして春休みの宿題に取り組んでいる山宮を見た。
白いマスクと目にかかる長い前髪の間に収まる瞳の下の泣きぼくろ。茶髪でくせっ毛の自分とは違う、まっすぐな黒髪が艶を帯びている。紺色のセーターの小柄な背が呼吸に合わせて上下に動くのを見ていると、心臓がトクトクと音を立て始めた。
「ねえ山宮」
こちらも見ずに「なに」と消しゴムを手にした彼に朔也は言った。
「あのさ、エロいことしない?」
山宮の消しゴムがびりりとプリントを破いた。