アンヌは水晶玉を、ハーメルンで新調したカソックの懐にしまった。
彼女も出入り口が不可視の壁で封鎖される前に市内に帰るや、騒動に巻き込まれた魔女たちに事情を説明して募り、通路を西に疾駆していたのだ。
『マルクト広場東にある門の手前、南への道を重点的に調べてみて』
それが、スミエからの新たな指示だった。けれども交信したとき、アンヌらは広場南端から西方に延びる道中にいたのである。
「隊長さん」当然、後続の魔法少女が疑問を呈した。「東に直進したほうが近道じゃないですか?」
彼女たちはこのあと、建築群の西側を迂回していったん南を目指し、一つ下の通りを東に行くことで目標に達しようとしていた。
アンヌは辛そうに言及する。
「それだと、主戦場のマルクト広場を横切るわ。敵に動向を察知されないためにも迂回したほうが賢明よ」
みな、いちおう了得したようだった。
そういう手段にもなるだろうが、嘘も含んでいるとアンヌは自覚していた。
妹との追懐が胸中を締めつけていたのだ。
マルクト広場にはセシールがいる。盗聴していた彼女たちの対話から、戦っているのが姉妹なのは明白だった。
正体を現して変容し足下の魔法円から滲む魔力にも、懐かしい感覚が残存している。どういう顔で対面したらいいのか、アンヌには見当もつかなかった。
確かに、セシールは昔から魔力が強かったが。単なる才能でなく、妖精としての特質だったとは。
姉を真似て魔法使いを志すかわいい妹のはずが、人としての魔術を身につけて生来のものをごまかすためだったのかもしれない。
やり場のない怒りを空から襲ってきた