やたらと長い階段を下りた地下一階、ある通路の突き当たり。
「なかなか、人工の洞窟か自然にできたものか判別できる決定打がありませんな」
などとしゃべりながら、太田はそこに設置されていた小綺麗な宝箱を開けた。
「だから」後ろで四郎がツッコむ。「その宝箱はいつどうやって配置されたんだ」
「お、エリクサですか」
喜んで太田が取り出した中身は、小瓶に入った虹色の液体だった。
最高級回復アイテムで、
「希少品ですな。ギルドから洞窟で拾得したものはもらっていいとされていますが、どうしますかね」
「だから、なぜ宝箱にわざわざ回復薬一個入ってるんだ」
「自然発生したからでござるな」振り向きもせずに太田は言い、傍らで箱を覗いていたホムンクローンに差し出す。「戦闘はクルス嬢のみが行っていましたからな、飲んだ方がよろしいのでは?」
「いつから入ってたのかも不明なのに消費期限とかはないのか」
「いっただきまーす♥」危惧をよそに、クルスはさっさと蓋をあけて一気に飲み干した。「うーん、まずまずね。はい、ゴミはあげる♥」
「おっと」放り投げられた空き瓶を受け取り、太田はつぶさに観察。「底の方に少量余ってますな。では失敬して、間接チッスを」
「死ね♥」
口をつけようとしたところでクルスにぶん殴られ、吹っ飛んで岩壁にめり込み人型を作るオタクだった。
一連のやり取りを、もはや四郎は唖然と眺めているしかない。
しばし後。いったん一つ前の分かれ道まで引き返し、別なルートを進んだ一行。
すると今度は、突き当たりを細かな装飾の施された両開きの大扉が塞いでいた。危険を察知すると鳴き止むカナリアが、沈黙する。
「不吉だが、扉はどうせ自然発生したんだろう」
これまでの展開から投げやりに科学者が指摘するや、太田が冷たい眼差しを注いで否定する。
「なにをおかしなことを仰っているのですか、四郎氏。そんなわけないでござろう」
「おまえな」
苛立つ四郎をよそに、オタクは二枚の扉が合わさる中心を指差す。
「この紋章は明らかに人工のものでござる」
「そっち?」
「しかもこれは……」
そこには、〝ネ〟のような模様が刻まれているのだった。
「一見カタカナの〝ネ〟のようだが、ハジマリノの文字か?」
四郎はリインカから最初にもらった特典である、異世界の言語が自動翻訳される能力を用いて解読しようとした。が、紋章は言語ではないのか、どうにも〝ネ〟という以外に理解できない。
苦戦していると太田に呆れられた。
「正気ですかな四郎氏? カタカナの〝ネ〟に決まっているでござろう、これは魔王ネーションの紋章でござるな」
「安直すぎるだろ」
「すると未知なる魔王軍の拠点だった可能性がありますな」
スルーする太田に、仕方なく四郎も推測を披露する。
「……いくつか発見の報告はあるな。中にはスライムのように魔王の創造物ではない操られていた魔物や、自由意思で奴に従っていた残党の情報もあるが」
「ですな。この扉を開けたらボス戦かもしれませんぞ」
「カナリアも黙ってるしな」
「いえ、ダンジョンの奥にはたいていボスがいるものですし。直前に回復アイテムが備えてありましたからな」
「なんでボスが敵のためにそんな配慮するんだよ」
当然のようにツッコむと、ついに太田は己の頭部をちょんちょんとつついた上で心底心配そうにほざいたのだった。
「失礼ながら頭は大丈夫ですかな、四郎氏? 自然発生したからに決まっているでござろう」
「……この野郎」
怒りに震える四郎をよそに、クルスはさっさと扉を開けていた。