四郎は緊張の面持ちで、黒煙を背にした上位女神を仰ぐ。
「少しは効いて欲しかったんだが」
そこに、セイゾウはさらなる絶望をもたらす。
「まともに食ろうてもどうということはないが。自分より下位の神が転界の許可なくできることは無条件でできるわっちが、なにに転生したと思う?」
確かに、中位神になると自身を転生させられるとは以前リインカが話したことだ。ダイサンノ異世界で戦ったアースライムは最弱のモンスターであるスライムに生まれ変わっていた。
しかし、ここではどうだろう。
見渡す限り天と地しかなかったダイロクノは、セイゾウ・セイコ自体が創ったという。生まれ変われるものなどなさそうである。
「み、未確認生物のスカイフィッシュとかですかな」
「土があるから、び、微生物とかであってほしいわ」
「最大の特徴は世界の創造、さっきは地形すら操り棘にした。際限がないのならば宇宙自体か?」
「さよう」太田とリインカはスルーして、四郎の推測を認める。「有機体で構成された世界を創造し、同化したのよ。即ち、わっち自身が一つの宇宙じゃ」
「……どれほど頑丈かは知らないが」科学者にして錬金術師は、空中で身構えた。「さすがにアルクビエレ・ドライブには耐えられんはず」
「宇宙の100億倍のエネルギーだったか、ただし使えるのは日に一度」
さらりと、セイゾウは当てた。
四郎たちが驚くのを見届けて、いやらしく彼女は続ける。
「上位神ぞよ、ダイロクノがあるダイイチノという同じ世界で起きる事象くらい把握しておるさね。こうしたら、どうなるかの?」
そしてキセルを侵入者の方に向け、先端に光を灯した。
次の瞬間。
ドオォォォ!
閃光と轟音と衝撃がそこから放たれる。
いや、そんなレベルではなかった。白い爆発としか形容しがたいものだ。
粉塵爆発なぞ比較にもならない。見渡す限りを吹き飛ばすものだ。
四郎はとっさにセイゾウの方へ両腕を向け、展開したエネルギーで相殺するのが手一杯である。
「な、んだこれは!?」
どうにか呻く。
絶えず襲う白い爆発は、さっきまであった無限の空の光景を根こそぎ消し飛ばした。
もはや、空も影も形もない。閃光一色。
しかも一度ではない。すさまじい速度で絶え間ない波のように、セイゾウがいた方角からそいつは何重にも降りかかってくる。
みるみる、アルクビエレ・ドライブの容量が減少していた。
「オ、オタク」四郎はどうにか後ろにいる仲間に訊く。「このエネルギーの正体は、見破れるか?!」
「い、いろいろすごすぎて難解ですが。えーと、10の36乗分の1秒から10の34乗分の1秒の何かのあとに爆発が――」
「インフレーションか!」
科学者は悟った。
「あ、知ってる」女神がほざく。「あれでしょ、物価が下落して――」
「それはデフレだし経済用語のインフレじゃない! ビッグバンの直前に起きた現象だ!! つまりこいつは、ビッグバンそのものだ!!」
宇宙を誕生させた大爆発、ビッグバン。
セイゾウはまさに、それ自体を何度も起こして攻撃手段としているのだった。
一発で宇宙を一つ生むエネルギーである。防ぐごとに、アルクビエレ・ドライブはそのぶん減っていたのだ。
「世界創造の権限が無条件に許されてるとかいったが、こんなにめちゃくちゃできるものなのか!?」
果てしないような爆発の連続。
気の遠くなるほど白い波動が全てを震撼させたあと、やがてそいつは収まりだした。
実時間としては、セイゾウがビッグバンを放ちだしてから数分後のことだ。
終わりの衝撃が過ぎ去ったあと、徐々に光が退く。
そこには、暗黒の宇宙に星空が瞬く転界のような空間が新たに創造されて広がっていた。
「さて」
距離的感覚としては最後にまともに視認できたときと同じくらい離れたところで、セイゾウは三人を見下ろしてキセルを吹かす。
「宇宙を99億個破壊するほどのエネルギーを放出したが、いかがかのう?」
決してはったりなどではない、紛れもない真実であった。