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仲間と秒で落ち合う

 四郎がチョイサキ大草原を進むと、まもなく遠くに二つの人影を見出だせた。


「うお~ん、四郎氏~!」

 一人は太田で、泣きながら駆け寄ってくるやひれ伏して錬金術師の足にしがみつく。

「申し訳ないでござる。事件現場で発見された金の分析、拙者も手伝わされてしまったのです。概要は後から聞かされたので、四郎氏が犯人ならあんな軽はずみなεὕρηκαエウレカはしなかったのに。なぜ闇落ちしてしまったのでござるかぁ~!」


「いや信用しろ、わたしは犯人じゃないから」

「本当でござるか? 証拠は?」


「……そうだな」疑うオタクに呆れつつも、四郎は閃く。「おまえ、ここの大臣の名前を知っているか?」


「ふひひひひ、拙者政治には疎いもので存じ上げませぬ。元世界の総理大臣も間違えたりしていましたからな。なんと仰るので?」


「ヤスだ」

「犯人ですな」


 即答だった。

 疑問だったので、いい機会だから尋ねてみる。

「なあ、なぜそう思ってしまうんだろうな」


「ご存じないのですか四郎氏」今度は太田が呆れる番だった。「まだネットもないファミコン時代に口伝で広まった最も有名なネタバレですぞ。ポートピア……おっと、ここでもネタバレになってしまうので黙っておきます」


「誰に配慮してるんだ」


 コント染みたやり取りをしているうちに、先程離れて窺えたもう一つの人影もそばに来ていて言った。


「ご無事でなによりですわ、四郎さん」カンテラを持ったメアリアンだった。「あたくしも、心配しておりましたのよ」


「騒がせて悪いな」

「いいえ。実は他にもちょうど大変なお知らせがありましたの、転界からですわ」

「転界が?」

「はい。……あの、申し上げにくいのですけれども一方的に連絡だけを寄越してきましたの。転界は今回の事件を重大視して、勇者失格で信頼ならないとしてあなたからユニークスキルを没収しましたわ」

「もうか?」

「ええ、すでに使えませんわ」


 ちょうど太陽も沈み掛けていたので、四郎は指先に光源の火を灯すつもりで試してみる。

「〝アルクビエレ・ドライブ〟……確かに」

 なにも起きなかったので納得せざるを得ない。

 それでも、たいして衝撃を受けた様子もなく言う。

「対応が素早すぎて怪しいな。わたしを嵌めたのも、どうも転生者のようなんだ。異世界ネットでわかることはないか?」


「魔王関連の情報しか調べられませんから、何とも」

「逆に言えば、魔王とは無関係か。リインカはどうしてる?」

「それが、連絡が取れませんの」


「ふむ」四郎は顎に手を当てて思考する。「タイミング的に巻き込まれた可能性もあるかもしれん。なおさら速急に解決せねばな」


「ですが四郎氏」太田が心配する。「アルクビエレ・ドライブなしで大丈夫なので?」


「見くびってもらっては困る」

 そう述べるや、錬金術師は国境へ向けて歩みを再開する。

「さあ、行こう。夜のうちに現場検証を済ませたい。潜入もしやすいだろうからな」


 そのとき、三人を包囲するように青白い炎が宙に灯った。草原のやや上に、赤子くらいの大きさのものがざっと10個ほど。


「ウィルオウィスプですな」太田が言及した。「チョイサキ草原には夜間しか出現しないモンスターです。ゴブリンよりちょっと手強いですぞ」


 太陽はいつの間にか沈んでいた。


「間がいい灯火だな」四郎は身構える。「ユニークスキルがなくとも、レベル99の錬金術師の実力を披露してやろう」


「あたくしも、戦闘には不向きですけれどお手伝いしますわ」

 メアリアンも覚悟を決めると、三人は自然と背中合わせになってウィルオウィスプに対峙した。


「〝第一質量イリアステル―水銀―水〟!」

 さっそく放たれたのは、錬金術師の技だった。

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