「一番目立つのはこちらです。ご主人様、お嬢様」
ほぼ全兵士がアルクビエレ・ドライブで調合された笑気ガスによって眠らされた中。カンテラを持って先導する唯一起きている操られた帝国兵が、執事のように四郎たちを城壁内の中庭へと案内する。
そこには、ちょうど真ん中に大地を抉る大きな半球形の穴。クレーターができていた。
「大臣も言っていた、魔法の形跡というやつか」
錬金術師が問うと、兵士は答えた。
「はい、ですがここには何もありませんでした。被害者はみな、爆心地と推察されるこの穴の外です。屋外屋内を問わず全員が死亡しました、外傷もほぼ見当たらないのに」
一行は周囲を見渡す。
城壁はちょうどクレーターを囲うように円形に配置されていた。建物は、内壁際の一角に厩、壁と一体化した天守に隣接する礼拝堂があるくらいだ。多少内側に出っ張る形になる
「砦自体にはほぼ損傷もなく、そのままです」
「だいたい予想通りだな」
「えっ」太田が驚く。「四郎氏は、もう事件の全貌に見当がついてるので?」
「わたしにしか作れない金が係わっている時点でヒントのようなものだ」しゃがんでクレーターを調べていた錬金術師は、立ち上がって付加する。「だが、これだけでは他の魔法でも可能だろう」
「ですわね」メアリアンが同意する。「錬金術以外の呪いや毒の魔法でも、物理的損壊は少なく死者だけが発生しますもの」
「他に特徴的な形跡はないのか?」
四郎に尋ねられると、兵士は慎重に頷いた。
「一番問題の現場はこちらです」
言って帝国兵が扉を開けたのは、ドンジョン一階の一室だった。
他の建築物は灯りが点いていたが、そこだけは真っ暗。カンテラで照らされても眠らされている人影はなかった。
ただし、
「牢屋か」
浮かび上がった鉄格子の部屋たちを目にして、四郎は指摘する。
「はい」兵士は認めた。「強引にトナアリ帝国が領土とした元サイショノ国の一部ということもあってか、密入国が多めですから。本格的に裁く場合は帝国の街に送還しますので一時的な勾留の場です。他にも――」
彼は内部に踏み入り、女王国の三人も付いていく。
奥の突き当たり床には蓋のような扉があり、帝国兵はそれを開いた。
「密偵の疑い等がある場合などは、簡易な拷問が行える設備もあります」
内部は石造りの湿った空間だった。カンテラの光でも濡れているのがわかり、多少水も残留している。それとキラキラ光るものもいくらか窺えた。
短い下り階段の先には、また鉄格子もあった。
「水牢だな」
下りてはいかずに、四郎の推測を兵士は受け入れる。
「はい。川が近いので水も流しやすいですし、不都合ならば水没させて処刑もできます」
「いやですわ、恐ろしい」
メアリアンが己が肩を抱いて震え、太田も顔をしかめて言及した。
「草原を挟むとはいえ、戦後約一年で四郎氏の家の近くにこんなものまでできていたとは」
「ほぼ旧魔王軍の拠点を流用したものですがね。現状、水牢を帝国が使ったのは事件当日だけですし」
帝国人の補足に、錬金術師は大臣ヤスの言葉を想起して察する。
「ここが密室での被害というやつかな」
「はい、牢ですから。部屋と水牢の入り口に鍵があり、事件発生時は両方閉まっていました。被害者は特に皇帝に反抗的だった兵で、左遷された上でさらなる冤罪を着せられ閉じ込められていたようです。内部には他に誰もいませんでしたし、地下に至っては窓もなく空気穴くらいしかない。なのに、彼は最も長く生存していました。
事件については、〝爆音のあとに体調を崩した〟程度の証言しか得られませんでしたが。別の者たちは意識が朦朧としていて、中央で爆発があったことくらいしか話せませんでした。あとは、みなすぐに亡くなってしまったので。妙なのは、水牢の罪人以外は先程のクレーターから離れるほど長く生きる傾向にあったのですが――」
「ここは、結構そばですものね」
先に気付いてメイドが言う。
実際、監獄は内側に出っ張った天守の一部である性質上、クレーターと一番外側の城壁の中間辺りにあるのだ。
「そして、あの黄金か」
四郎は、カンテラの光を受けて地下のところどころで輝くものを指さす。まさしく、砂金のような金塊だった。
「ええ」兵士は認める。「水を抜いてみたらあちこちに金があり、帝国と王国の共同調査の結果、あなたにしか作れないものだと判明したと伺っております」
最後に、一行は病室だという一角に案内された。
「遺体はもう、葬儀と埋葬のために大部分が街に送られました」
と兵士がある部屋の扉を開けると、10ほどあるベッドが全て裸の男の遺体で埋まっていた。
「きゃー、何見せてるんですのー!」
メアリアンが赤面した顔を押さえて外に出ていく。
「あ、申し訳ありませんお嬢様ー!」
あくまでメイドが一番の主人になっている兵士も、追って行ってしまった。
「せ、拙者もあまり死体は拝見したくないですな。失礼」
太田は吐きそうなのか口を押さえて出ていった。
「やれやれ」
四郎だけが、室内に踏み込んで調べ始めた。
「外傷はほとんどない。原因不明の魔法とされるわけか」
実際、一見すると遺体に目立った傷はないようだった。せいぜい、肌が赤く腫れているくらいである。
「……これは」
だが、一部で水ぶくれのようなものが発見できた。
そこで四郎は確信した。
遺体の状態はほぼ即死だったためで、本来は肉体がとてつもない損傷を受けていることを。細胞が生き続けていたら、悲惨さが如実に表れていただろうということを。
彼は怒りで手を震わせながら厳しい顔貌で病棟を出ると、外で待っていた三人に告げた。
「大方、犯行手段がわかったぞ」