またアホ冷蔵庫のせいでいらない事をさせられる羽目になってしまった。
あのアホチルド、重さでこの遺跡の入口がひび割れる事を知らなかったとはいえ、浮遊回路だけ手に入れてオシマイのはずだった遺跡探索を更にややこしい事にしてくれやがった!!
ドスッ!!
オレが落下した上にチルドが落ちて来た。
このアホ……人の気も知らないで。
ソイソスたんは浮遊の魔法が使えたらしく、落下せずゆっくりと下に降りて来た。
って、浮遊の魔法が使えるなら上に戻ってオレ達を引き上げてくれない物かなーと思うんだよね、オレ。
「いてて……誰のせいでこうなったと思ってんだ!」
「そんな、アタシ……何も悪い事してないですのー」
こういう悪意の無い悪意が一番タチ悪い。
本人の自覚がゼロなので改善につながらない、だから何度でも同じ失敗を繰り返す。
いかんいかん、こんなアホ相手に怒ってたら寿命が縮まりそうだ。
それよりも早くここから移動する事を考えないと……。
そう思っていたオレの心を折ってくれたのは、上から落下する食材だった。
上から落ちて来た凍った肉や野菜は鈍器になり、オレの頭にいくつもの大きなこぶを作った。
「どわぁー! 痛いじゃねーか! バカヤロウ!!」
怒り心頭のオレはチルドを怒鳴ろうと彼女に近づいた、しかし……彼女も食材の落下で怪我していたら少しくらいは手加減してやるか。
そう思っていたんだが、コイツ、何自分だけフリーズバリアで身を守って無傷なんだよ!!
あーマジで腹立ってきた。
「お前は何故無事だったんだよ! オレなんて降って来た食材で頭打ったってのに!!」
オレは炎剣スルトの鞘でチルドをどついた。
ボガッ!!
「痛いですのー、何をするですのー」
「お前がオレを怒らせるからだ! このポンコツ冷蔵庫!」
「ひどいですのー、アタシは冷蔵庫じゃなくてきちんとしたチルド・シバレール・ブルッチョサムサム・ゴッサム・ドンビエール・ブリザード・テ・カジカム・サムイノデスって名前があるんですのー!」
毎度毎度思うが、この寿限無寿限無やピカソの本名並みの長い名前よく自分で覚えてるよなコイツ……。
そういうとこで無駄に記憶力が良いってのがさらに怒りに火をつける。
普段全く役に立たないくせに。
「お前達、こんな所で夫婦漫才やっておっても何も変わらんぞ。それよりどうにかしてここから出る方法を考えんとな」
「ソイソスたん、貴女ならこの落とし穴の上まで浮遊魔法で戻ってロープを降ろすなり何なり出来ないの?」
「うーむ、それは無理そうじゃな」
「え? 浮遊魔法ならぱぱっとと出来るんじゃないの?」
ゲームのシステム上前のマップに戻れないってメタネタだったらどうしよう。
「いやな、お前達気づいておらんのか? 向こうから何かが近づいてきておるんじゃが……」
「えっ!?」
オレはモーレツに嫌な予感がした。
つまり、ソイソスたんは魔法で上に戻るのが出来ないというのではなく、目の前に迫ってきている何者かがいるから戦闘になるので、ここから空を飛んで離脱が出来ないって言っているのか……。
「そ、それってひょっとして……足何本もあって、カニかヤドカリみたいな金属で出来た……」
「ほう、よく知っておるのう。まさにお前の言うそれじゃ」
それって、ひょっとしてこの遺跡のボスモンスター……。
「うぉっ!! ジャバウォックだぁぁあああー!!」
マジでマジでマジでマジで勘弁して。
この初期メンバー以下の連中であの中盤の難敵ジャバウォックを倒せって無理ゲーにもほどがある!
ドラゴンズ・スターⅥ ジャバウォックと調べると出てくるのが、初見殺し、スタッフの本気、勝てる気がしない、攻略法といったワードばっかりの強敵だ。
ジャバウォックは古代遺跡を守る為に作られた機械仕掛けのガーディアンで、サンダースピアと呼ばれる攻撃でHP上限まだ三桁の中で1200ダメージを与え、スタンウェーブで全体スタン、それに突進で一人600ダメージを与え、さらに行動が早いという難敵だ。
さらにHPは中盤なのに35000という絶倫体力で、弱点は氷だが、内部メカが露出しないと中々ダメージが与えられない。
コイツの装甲を剥がすには、モーションを仕掛けた後の突進を全員が防御する事で自身にダメージを受ける仕様を何回か繰り返さないといけない。
さらにコイツを倒すには、元帝国将軍ヴィネガーのオーラブレードが無いとかなりの難敵だ。
むしろオーラブレードのお披露目用の敵といえるレベルで、ここでヴィネガーを入れずにクリアするのが上級者の楽しみ方とも言えた。
そんな状態でヴィネガーがいないこの状況下でサンダースピアを食らえば確実に死亡確定。
スタンウェーブも今のチルドとかだと致命傷になる。
突進されたらオレならどうにか炎剣スルトでカウンターも出来るが、ソイソスたんとか相手にもならないだろう。
マジでこれ詰んだな……。
くっそー、こうなったら化けて出てやる。
この遺跡のゴーストのボスになってくるやつら全員呪い続けてやるー!!
オレがそんなアホな事を考えている間に、ジャバウォックはおれたちとの歩幅を縮め、ついに目の前に現れた!!
「〇〈§ΔΨΨ!!#」
頼む、日本語でおK、せめて何かわかる言葉で話して下さい。
ジャバウォックはオレ達に狙いを定め、サンダースピアを放ってきた!
あ、コレ死んだかも。
「キャアァアアッ!! 怖いですのぉぉぉおー!!」
チルドが半泣きになり大声で叫んだ。
すると、彼女の周りにフリーズバリアが発生、サンダースピアが凍り付いた。
――マジかよ!
ジャバウォックは何があったのかわかっていないようだ。
本来の行動ルーチンを乱されたジャバウォックはスタンウェーブを発動させたが、それもなぜかチルドの前で凍り付いた。
何コレ……。
このフリーズバリア、実際の強敵後半ボスのモノと同じ性能じゃないかよ。
ジャバウォックはオレ達には目もくれず、さっきから攻撃を無効化しているチルドを執拗に狙って攻撃を繰り返している。
だが、サンダースピアもスタンウェーブも全部凍り付いてしまい、チルドには傷一つ与えられていないようだ。
マジでアイツ一体何者なんだ? オレが知る限り、本編ではフリーズバリアを持ったモンスターなんて二匹しかいなかった。
だがこのフリーズバリア、どう考えてもその二匹のフリーズバリアより性能が凶悪なんだが。
しびれを切らしたジャバウォックは、チルドに突進を仕掛けた。
オレ達がかばう事も出来ないタイミングで仕掛けられた突進は、チルドにダメージ一つ与える事が出来ず、逆にジャバウォックが凍り付いてしまった。
マジでどうなってるんだ?
凍り付いたジャバウォックはどうにか動こうとして体を動かすが、その度にパーツが欠け、少しずつダメージが蓄積している。
これなら勝てる!! よし、やってやる!
「ソイソスたん、魔法で援護を頼む。オレも剣でコイツを攻撃してみるから」
「わ、分かったわい。とりあえず、凍り付いているからファイアウォールを仕掛けてみるぞ」
ソイソスたんのファイアウォールはジャバウォックにかなりのダメージを与えた。
流石は大魔法使い、およそ3000かのダメージは与えたってとこか。
オレは炎剣スルトを握り、ジャバウォックの弱点のカメラアイに接続された首の後ろから攻撃した。
確実な手ごたえ! ジャバウォックは機能を停止、そしてフリーズバリアで凍結した個所は徐々にひび割れ、ジャバウォックの六本の足は粉々に砕けた。
「びぇえええー。怖かったですのー」
チルドは目の前の怪物が動かなくなった途端、フリーズバリアが消え、その場にへたり込んで大泣きしてしまった。