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覇業の10 軽薄ギャンブラーと実直竜騎士

 どうにか遺跡のガーディアン、ジャバウォックを倒したオレ達は、この遺跡のかなり下の方に落ちて来た事が分かった。


 あの入り口の穴、一番下まで一気に穴が開くようになっていて、大量の敵が来たらそこから落とす事で機動兵器ジャバウォックに退治させる罠になっていたって事か。


 どうにかジャバウォックの残骸を乗り越えたオレ達は遺跡の上の方に戻る事にした。

 そうだ、ついでにジャバウォックの持っているドロップアイテムを今のうちに手に入れておこう。

 コレがあると中盤以降が楽になるアイテムだったんだよな。


 オレはジャバウォックの頭部に剣を差し込み、カメラアイの部分のレンズを取り出した。

 そうそう、コレがジャバウォックのレンズ、コレを使う事で鍛冶師に上級武器を作ってもらえるようになるんだ。


 つまり、このジャバウォックのレンズは、高熱を一点に集める事が出来るアイテムで、それを使えば炎の魔法を閃光のように一点化させて一気に敵を薙ぎ払う事が出来る。

 だから中盤ではこのジャバウォックのレンズを本編ヒロインのセチェルかソイソスたんに渡すのが最速クリアのやり方の一つだったって事だ。

 この魔力集中の出来るジャバウォックのレンズ、これを反乱軍に渡して武器のレベルを上げるか、それともプレイキャラに渡して魔法の能力を底上げするか、コレの選択でプレイヤーは悩む事になる。


 ジャバウォックのレンズは、この北の遺跡に戻ってきてコイツを倒すという意味では中盤の山場で手に入る、このレンズを渡して武器を強化してもらうのがオーブレンジ帝国の本拠地に乗り込む為のフラグになるので、たいていのプレイヤーは物語を進める為にすぐにジャバウォックのレンズを反乱軍の鍛冶屋に手渡してしまう。

すると中盤の難所ダンジョンを簡単に進めるのが出来なくなるので、スピードクリアを目指すプレイヤーにはタイムロスになるので、ジャバウォックのレンズを鍛冶屋に渡さずにソイソスたんに渡すのが一番効率的なクリア方法ってとこだ。


 だからオレはこのジャバウォックのレンズをソイソスたんに渡す。


「ほら、これやるよ。使いな」

「こ、これは何じゃ? 何かのレンズのようじゃが」

「それを使って火の魔法を使ってみてくれ」

「火の魔法……こうか?」


 ソイソスたんが軽く放ったファイアボールはジャバウォックのレンズによって収束され、細い熱線として一気に遺跡に一部を焼き切ってしまった。


「ほう、これは面白いものじゃな」


 レンズによる魔力収束の威力を確かめていたオレ達の後ろで、チルドがフリーズバリアを発生させていた。


「熱いの嫌ですのー! 熱いの怖いですのぉー」


 あらあらあら、しかしあのチート能力ともいえるフリーズバリア、どういう時に発動するんだろうか。

 多分だがチルドの恐怖の感情が高まった時に防衛用として発動すると考えればいいのかな?


 ジャバウォックの残骸を乗り越えたオレ達は、遺跡の中を探索する事にした。

 この遺跡を探索しながら奥からどうにか上に戻る道を捜す途中で、オレ達は人の気配を感じた。


 あれ? こんな場所に人がいるなんて、ここは無人の遺跡じゃなかったのか?

どうやらここにいるのは二人の男のようだ。


「すみませーん、誰かいるんですかー?」

「おや、こんな遺跡の中に人がいるのか、って……奥の方から来たって事は、入り口で落ちたのかな」


 男はオレ達が遺跡の中の方からやって来たのを見て、入り口のトラップに引っかかったとすぐにわかったらしい。

 それが分かるという事は、彼は素人ではなさそうだ、多分ベテランの冒険者ってところか。


「はい、オレ達は入口のトラップに引っかかって、遺跡の奥まで落ちてしまったみたいです」

「そうか、それは運が無かったな、しかし……よくあのジャバウォックから逃げて来れたもんだな」


 確かに、あのジャバウォックの強さから考えると、普通なら勝てるわけがない。

 だから逃げて来たと考えるのが普通だろう。


 というか、この人物どこかで見た事があるような……。


「おい、誰がいるんだ、こっちは特に何も問題は無さそうだったぞ」


 奥から姿を見せたのは、槍を持った竜騎士だった。

 見た感じ、かなり磨き上げられた鎧をバッチリと装備したスラっとしたイケメンだ。


 で、コイツも確か見覚えがあるんだよな……でも、オレが知っている人物はもっと薄汚い格好で無精ひげのちょい悪オヤジに見えるような見た目だったんだけどな。


 多分こいつはケッツ・チャップだな、滅びた元ストロガノフ王国の竜騎士団長だった男で、本名はフォン・ドヴォー・ブーケガルニ。

 ドラゴンズ・スターⅥの本編では軽薄で女好きのだらしないオッサンといった感じだったが、この姿はその王国が滅びる前の規律正しい堅物の竜騎士といった感じだ。


「失礼いたしました。申し遅れましたが、私はストロガノフ王国の騎士団長フォン・ドヴォー・ブーケガルニと申します。この遺跡にもしや行方不明の我が王国の王子がおられたら、と思い、旅の冒険家に協力してもらって王子を捜していたのです」

「オレはグリル・ヘルシオ・ガスバーナ・オーブレンジだ。オーブレンジ帝国の新規皇帝になる男と覚えておいてくれればいい」

「おお、貴方は帝国の新規皇帝でしたか。今後とも我が国とよろしくお願い致します」


 今のところ、オーブレンジ帝国はまだ世界征服に乗り出したわけでは無いので、この本編で滅びたストロガノフ王国とは敵対しているわけではない。

 だからケッツ・チャップことフォン・ドヴォー・ブーケガルニがオレに敵対的な態度を見せていない。

 しかし、本編では彼はストロガノフ王国を滅ぼしたオーブレンジ帝国に対するレジスタンスの切り込み隊長としてさすらいのギャンブラーの姿で、情報収集や破壊工作に取り組んでいた。


「おや、そちらの女性がたは?」

「ワシはソイソス・ナットー・マメビーンズじゃ。人には大賢者ソイソスとか呼ばれておるかのう」

「アタシは……チルド・シバレール・ブルッチョサムサム・ゴッサム・ドンビエール・ブリザード・テ・カジカム・サムイノデスですわ」


 毎度毎度ながらこのアホ冷蔵庫、よくこの噛みそうな名前をスラスラと言えるもんだ。


「おお、これはこれは。わが国では女性は大切に扱わなくては男として恥ずかしいと言われます。どうぞ私が護衛しますので、ご安心ください」


 よくもまあこんな歯の浮く気障な台詞を恥ずかしげも無く言えるもんだ。


「フォン。こっちの方は先に進めそうだぞ」

「カッツォ、わかった。ではそちらに進んでみよう」


 カッツォだって!? それって、本編主人公ダッシュ・デガラッシュの父親の冒険家、カッツォ・デガラッシュの事か。

 という事は……本編でのトラウマシーンになる遺跡での事故ってこの後起きるって事じゃないか。


 本編で有った内容は、このカッツォが作動した遺跡の罠からフォン・ドヴォー・ブーケガルニを助け出し、本人が落ちてくる天井に潰されてしまうといったものだ。

 その際に形見として後のケッツ・チャップに渡されたのが主人公の手に入れる父親のペンダントになる。


 ――って事は、ここでカッツォを助けてやれば、本編の中でダッシュの父親が死んだという設定が覆される事になり、物語がもっとスムーズに進むんじゃないのか?


 オレ達はカッツォの案内する方に向かい、遺跡の中を進んだ。

 オレがこの遺跡の中身を全部知っているとは言っていないが、なんとなくのカンっぽい感じに見せつつ、遺跡の罠を回避出来た。

 そして、ついに遺跡の奥にある宝の部屋に来たのだが、ここでオレが動く前に……本編通りにカッツォが宝に手を出してしまった!


 ズゴゴゴゴゴゴッ……!!


「しまった! これは罠だ!」


「どわーっ! 言わんこっちゃない、どうするんだこれは!!」


 ここでカッツォを助けないと、本編の流れそのままになってしまう、どうにかして救出する方法を考えないと!!

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