「タカヒロ、ちょっと付き合ってくれないか」
ジョルジュさんとの話の後、レイに声をかけられる。
「ん? どうしたの?」
「ちょっと話したいことがあるんだ。部屋まで来てくれ」
真剣な表情を浮かべるレイに、黙ってついていく。
「わかっていると思うけど、ナーシェンは俺の父親だ」
サンダルを脱いでベッドの上に乗っかると、レイがおもむろに口を開く。
「ずっと虐待されてきたから、あいつを父親と思ったことはないけどね」
それだけ言うと、そのまま押し黙る。
レイにとって、ナーシェン……父親の存在はそれだけ重いものなのだろう。
もともと華奢なレイだけど、いつもよりさらに小さく見える。
私は思わず自分もベッドの上に腰掛け、レイの肩を抱いた。
普段なら嫌がりそうなレイだが、今日は黙ってされるがままになっている。
肩を抱いていると、小さく震えていることがわかった。
思わず、肩を抱く手に力を込めてしまう。
「そんなに心配しないでよ」
「心配くらいはさせてほしいな」
「……」
「……」
ちょっと重苦しい沈黙が落ちてしまう。
だけど、少しずつだけどレイの身体の震えが治まってきたような気がする。
「タカヒロは優しいけど、ナーシェンのことはちゃんと敵として認識してくれ。じゃないと、あんたが殺されてしまう」
レイが私の手を握りながら、はっきりとした口調でそう言う。
「わかった。血の繋がりがあろうが、レイを傷つけた相手を許すつもりはないよ」
私もその手を握り返し、はっきりした口調で答える。
「だったらいい。修行、頑張ろうな」
「うん、頑張ろう」
お互い気持ちを確認すると、レイはベッドから降りて部屋から出ていくのだった。
しばらくすると、続けてフランツが入ってきた。
「レイとはちゃんとお話できましたか?」
「うん。ちゃんと話せたよ」
真面目なフランツは、レイのことも気にかけているのだろう。
「ナーシェンはレイの実の父親ですが、僕の仇でもあります。僕はあいつを絶対に許せません」
怒りからか、フランツの身体も震えていた。
「厳しくも優しかった父が、あいつのせいで……」
フランツの目尻から一筋の涙が流れ落ちる。
いつもはリーダーとして気を張っているフランツだけど、仇が生きていることがわかって感情が止められないのだろう。
私はフランツの肩もしっかりと抱きしめる。
「情けないところを見せてしまってすみません。でも、タカヒロさんにしかこんなところ見せられなくて」
そういうフランツは、いつもより弱々しく、守ってあげたい……そう思わせるような表情をしているのだった。