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4章 依頼完了

第01話 それぞれの事情

「タカヒロ、ちょっと付き合ってくれないか」


 ジョルジュさんとの話の後、レイに声をかけられる。


「ん? どうしたの?」


「ちょっと話したいことがあるんだ。部屋まで来てくれ」


 真剣な表情を浮かべるレイに、黙ってついていく。


「わかっていると思うけど、ナーシェンは俺の父親だ」


 サンダルを脱いでベッドの上に乗っかると、レイがおもむろに口を開く。


「ずっと虐待されてきたから、あいつを父親と思ったことはないけどね」


 それだけ言うと、そのまま押し黙る。


 レイにとって、ナーシェン……父親の存在はそれだけ重いものなのだろう。


 もともと華奢なレイだけど、いつもよりさらに小さく見える。


 私は思わず自分もベッドの上に腰掛け、レイの肩を抱いた。


 普段なら嫌がりそうなレイだが、今日は黙ってされるがままになっている。


 肩を抱いていると、小さく震えていることがわかった。


 思わず、肩を抱く手に力を込めてしまう。


「そんなに心配しないでよ」


「心配くらいはさせてほしいな」


「……」


「……」


 ちょっと重苦しい沈黙が落ちてしまう。


 だけど、少しずつだけどレイの身体の震えが治まってきたような気がする。


「タカヒロは優しいけど、ナーシェンのことはちゃんと敵として認識してくれ。じゃないと、あんたが殺されてしまう」


 レイが私の手を握りながら、はっきりとした口調でそう言う。


「わかった。血の繋がりがあろうが、レイを傷つけた相手を許すつもりはないよ」


 私もその手を握り返し、はっきりした口調で答える。


「だったらいい。修行、頑張ろうな」


「うん、頑張ろう」


 お互い気持ちを確認すると、レイはベッドから降りて部屋から出ていくのだった。




 しばらくすると、続けてフランツが入ってきた。


「レイとはちゃんとお話できましたか?」


「うん。ちゃんと話せたよ」


 真面目なフランツは、レイのことも気にかけているのだろう。


「ナーシェンはレイの実の父親ですが、僕の仇でもあります。僕はあいつを絶対に許せません」


 怒りからか、フランツの身体も震えていた。


「厳しくも優しかった父が、あいつのせいで……」


 フランツの目尻から一筋の涙が流れ落ちる。


 いつもはリーダーとして気を張っているフランツだけど、仇が生きていることがわかって感情が止められないのだろう。


 私はフランツの肩もしっかりと抱きしめる。


「情けないところを見せてしまってすみません。でも、タカヒロさんにしかこんなところ見せられなくて」


 そういうフランツは、いつもより弱々しく、守ってあげたい……そう思わせるような表情をしているのだった。


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