「た……タカヒロさんっ。すぐにダイのところへ……」
少し回復したフランツに促され、ダイの元へと走る。
酷いやけどだったが命に別状はないらしく、しっかりと呼吸をしている。
私はすぐさまダイを抱きしめ、回復力を注ぎ込む。
「うっ……ぐっ……」
「ダイ、しっかりするんだ!」
小さくうめき声を上げるダイに、声をかけて意識を保たせる。
「その回復力は凄まじいものだが、果たして追いつくかな?」
ナーシェンは次々と火球を生み出しては投げつけ、膨れ上がった筋肉で殴りつける。
「ぐっ!」
「うわあ!」
その攻撃でレイとリカードも大ダメージを受けてしまい、フランツとジョルジュさんが二人を私の元へと運んでくる。
ジェルジュさんの仲間達はなんとか耐えているものの、それも時間の問題という感じだ。
「神の力と言っても所詮はこんなものか。もはや、私は神をも超えた存在だということだな」
ナーシェンのその言葉に、私の中の邪神が反応する。
『愚かなエルフよ。我を愚弄するか』
私の口から邪神の声が発せられる。
自分の口から自分以外の声が出てくるというのは不思議な気分だ。
「ほう、そいつの身体を乗っ取ったのか。そんな脆弱な身体よりも、私に取り憑いたほうが有意義だぞ」
『貴様の目的な何なのだ?』
「最強の力を手にすることよ」
『力を手に入れた後、何を成し遂げる』
「そうだな。歯向かうものをすべて滅ぼすか」
『滅ぼした後、この世界の王にでもなるつもりか?』
「そんなことに興味はない。私はただ最強の存在になりたいだけよ」
『それではつまらぬ。今でもその強さなのだ、我が力を貸せばすぐにでも最強になるだろう。それですることが自分より弱い者を滅ぼすだけでは娯楽が足りぬ』
「私の崇高な目的が理解できないか」
『いや、我もかつては最強を目指した。だから貴様の気持ちも理解できる。だが、すでに最強になった我は貴様に力を貸して再び最強になったところで、その先がなければつまらぬということだ』
「ふん。ならば、その脆弱な身体から無理やり引きずり出してくれよう」
ナーシェンは話は終わりとばかりに、朗々と呪文を唱えだす。
おそらく、その呪文が完成すれば私達は一瞬の間にやられてしまうのだろう。
『人間よ。貴様はなぜ我の力を欲した?』
「フランツを助けたかった。いや、最初はフランツを襲う魔族を殺したかっただけだった……」
『そうだ。貴様もただ強い力を欲し、我はそれに答えた。だが、その後の貴様は小僧共を助けるために我の力を使った』
「当たり前だ。フランツ達が死んでしまったら魔族を倒した意味がない」
『結果、我は小僧共の身体を貴様を通じて味わっている。我としては貴様達の関係は少し物足りぬが、だからこそ長く楽しめそうだ』
そこまで言うと、邪神も何かしら呪文を唱えだす。
ここまできたら私も邪神を信じて、自分の生命力と精神力を邪神に預けるしかないのだった。