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第50話 何が本当の愛なのか

 広いリビングの中、小さな子供たちが遊ぶおもちゃで散らかっている。端っこにはベビーベッド。使ったお皿であふれた台所のシンク。坂本敏彦の本妻である茉優まゆは、家事が苦手、育児も苦手、仕事もできない騒ぐのだけは人一倍だった。身に着けているのものはすべてブランドものでないと気が済まない。その割には仕事はしない。顔は整形をして、夫が好きな顔に綺麗にした。何が正解かわからないまま主婦として、毎日ぼんやりとスマホをいじりながら、片手に0歳の女の子、リビングにはおもちゃをいじる1歳半の女の子。泣くときだけ抱っこするのでせいいっぱい。母乳は出ないからとすぐに粉ミルクにするが、冷水で冷ますことを忘れて熱いまま与えてしまうこともあった。


「ママぁ! あんぱん、しょくぱんであちょぶ!」


 床に落ちたおもちゃを拾って、長女の樹絵瑠じゅえるが寝ぐせをつけながら、ふらふらで歩いてくる。


「はいはい。1人で、遊んで。ママね、亜玖亜あくあ抱っこしてるから一緒に遊べないんだよぉー!!」

 育児は苦手でどう接するかもわからずに感情の思うまま過ごす。可愛いと思ったことがない。どちらかと言えば、亜玖亜の泣き声が耳障りだとすぐに泣き止ませるためにミルクを飲ます。そのアクションだけは忘れない。樹絵瑠が泣き叫んで駄々をこねても無視したままだ。次女が泣き叫んでも、長女を優先で対応するとか無理と感じた育児書を読めと姑に言われて読んだが、そんなことできない。

 茉優は、思い通りにいかないと、2人とも床に置いてトイレに何時間も引きこもってスマホをいじっていた。ノイローゼになりそうだ。


 美容院に行って、ふわふわのウェーブになった茶髪に、アイシャドウとつけまつげをつけても、どこにも出かけない。こんな毎日に嫌気がさしてくる。


「ただいま」

 玄関の扉がガチャリと開く。夫である坂本敏彦が、片手に赤ん坊を抱えて帰ってきた。また同じ赤ちゃんの泣き声が聞こえると、茉優は頭を抱えて敏彦の背中を何度もたたく。


「どこから連れてきたのよ!! 何、その赤ん坊。全部育児や家事を私に任せて仕事はどうしたのよ!!」

「何、言ってるんだ。これは大事な跡取りだぞ。お前が女の子を産めなかったことにより坂本家を途絶えさせる気か?! これで安心なんだ。男の子だから。大丈夫。安心しろ」

「頭おかしいんじゃないの?! まだ2人の世話も落ち着かないうちになんでまた赤ちゃん連れてくるのよ。ふさけるんじゃないわよ。しかも、どこの誰の子よ? あ!? 浮気したわね。愛人の子だ。慰謝料請求させてもらっていいかしら!!」


 話のふり幅がえげつない。敏彦はその話をほぼほぼ無視をして、ベビーベッドに洸を寝かせた。亜玖亜はリビングのラグマットの上で寝かせられて、両手両足を動かしていた。


「私!! 家出するから」

 寝室のクローゼットをあさって荷物をまとめ始めた。


「落ち着けよ。なんで家出するんだ。物もお金も全部そろってるだろ。整形の費用だって、美容院、ブランドバック。これ以上、何を欲求するっていうんだ。母親に認められるには、この方法しかないんだよ。男がいないと跡継ぎがいないって俺の身にもなってくれ。これでやっと、俺も安心できる。親孝行なんだ」


 茉優は、ベッドの上に次から次へと必要なものをならべる。


「どうぞ、おひとりでやったらどうですか。私には無理です。自由を奪われ、時間も奪われ、私は幸せじゃなかった!! 子育ても家事もしたくありません。一人で楽しく生きていきたいから、そのお金はしっかりといただきますね。慰謝料請求は覚悟しててくださいね!!」


 玄関のドアがバタンと閉じた。

 キャリーバック荷物を入れて、早々に出て行った。



 乱雑した部屋には、樹絵瑠と亜玖亜、洸の3人の小さな子と呆然と立ち尽くした敏彦がいた。







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