――数カ月後
芝生が広がった公園で、チワワを散歩する小綺麗なおばあさんが、通り過ぎていく。歩いていると、落ち葉がかさかさと鳴った。碧央は、石畳の通路をゆっくり歩いていると、後ろからゴムボールが頭にぽんとぶつかった。
「いたたた……」
「ちょ、
「だっだぁー!」
碧央は、自分の頭をぼりぼりと撫でて話す。樹絵瑠はくすっと笑う。
「碧央、早いよぉー。早いんだから、歩くの」
洸を抱っこヒモに乗せて、ゆっくりと歩いてくる。隣には歩き始めたばかりの亜玖亜と碧央の近くにはお話し上手になりつつある樹絵瑠がいた。
「悪い悪い。木の下に落ちてるどんぐり拾おうと思ってさ。楽しいだろ、どんぐり。あと、松ぼっくりとか」
道端に落ちているどんぐりを拾って、樹絵瑠に見せてみた。
「どんぐり! どんぐり」
おままごとで遊ぶようになってきた1歳8か月の樹絵瑠に、もうすぐ1歳になる亜玖亜は、履いたばかりの靴に緊張して千鳥足だ。怖くなって、すぐに抱っこをせがむ。碧央は、まだ21歳にして、3人の親になるとは思わなかった。いろんなことがあり、里親制度を利用して、父親が亡くなった樹絵瑠と亜玖亜を引き取ることになった。洸は本当の息子だったが、手続き上、何故か里親制度を取らないと引き取ることは不可能となっていた。金持ちのやることは怖い。本籍を本当の父として、手続きしていたらしい。実母として登録してあった茉優は、すべての相続を放棄した。お金がらみはもちろん、子供の親権もとりたくないとしていた。
何だか、いろいろと面倒なことになっているが、知り合いの弁護士にお願いして金銭管理についてはお願いした。そんなこんなで子育ても一緒にお金も引き継ぐことになった。一気に忙しさが舞い込んでいる。碧央は、今まで通り牛丼屋のバイトを続けながら、大学に通っている。結愛は、子育てに集中しようと大学を退学した。3人のお世話をするには、どんなに若くても難しいと感じていた。血がつながらなくてもしっかり育てたいとそんな意志が2人の心にはあった。
「まさか。一気の3人の子どもの親になるとはね」
「確かに思ってもみないよ。よしよし……」
ベンチに座って話しながら、抱っこヒモの中、洸がぐずっていた。結愛は小刻みに揺れながらあやした。樹絵瑠と亜玖亜は、熱心にどんぐり拾いに夢中になっている。
「なんだか、洸が引き寄せたんじゃないかと思うよ」
「そうかもしれないよね。本当は、洸だけ引き取る予定だったけど、かわいそうって思ったし。年が近いから、尚更にぎやかになりそうだもんね」
「……あの人がまさか、あんなに金持ちだったとは思わなかったけどさ」
「そう。私もわからなかった。信じられないくらい資産持ってる人だったんだね。確かに太客だったけど」
「お金持ってるだけじゃ満たされないんだろうなぁ。人の気持ちは買えないもんな」
「……うん」
夕日に照らされた公園で、洸を抱っこしたまま、2人の小さな子供たちをじっと見つめて、ほっこりな時間を過ごしていた。想像もできない空間に未だに現実を受け入れられていない。碧央は、それでもこのゆったりした時間が好きだった。