時計の針がカチカチと鳴った。時々、冷蔵庫のブーンという音が部屋に響く。別室にいるはずなのにここまで届くのはよっぽど静かだということだ。碧央は、ふとんから顔を出して天井を見上げる。横で結愛は寝息を立てて、ぐっすり眠っている。そのまた横では洸が結愛のお腹に足を乗せて寝ている。寝相が悪かった。碧央の両隣には樹絵瑠と亜玖亜が交互さかさまになっていた。こんなに寝返りを打てない眠りは初めてだったかもしれない。睡眠が浅いのもそのせいか。いや、そうではない。きっと、結愛と知らない男性が公園でキスしていた姿を目撃したからか。ライバルをこの目ではっきり見てしまったのが頭の中でモヤモヤ映る。浮気をする方が多いが、されることは初めてだ。自信家でもある。なんという屈辱感。敗北感とでもいうのだろうか。プライドがズタズタに崩れた。
(俺って、もう魅力的じゃなくなったのか……子供こんなにたくさんいたんじゃ埋もれるってことなのか。イクメンとして頑張ってたつもりなのに……!)
ふとんをぎゅっと抱き枕のように抱きしめて、オンオン泣いた。幼くて、未熟者だ。一人眠れなくて泣いていると、横で寝ていた亜玖亜がパチッと目を覚まして、そっと碧央に流れた涙を指でふき取った。
「心の友よぉ~~~~」
小さな声で叫び、亜玖亜をぎゅっと抱きしめた。それを察した樹絵瑠が嫉妬して碧央の背中に横から飛びついた。
「ずるいぃいいーーーー。私も」
2人にはさまれ、サンドイッチ状態になる。わちゃわちゃとやっていると騒がしくなり、電気がパチッと急についた。
「ちょっと、騒がしいんだけど、何やっているの?」
結愛が目をこすり、電気をつけていた。横で寝ていた洸が目を覚ます。ぎゃん泣きし始めて、あっちこっちで忙しい。、みんなが泣き叫んで、てんわやんわのお祭り騒ぎになる。時刻は、真夜中の午前2時。怖いと感じるこの時刻もにぎやかになって怖さも半減。悩んでいたことはなんだったっけと忘れてしまうほど。
「ちょっと、碧央。紙おむつとって! あとミルクも」
「え、あ。うん。待って、樹絵瑠! 腕にしがみつかないで。ちょっと、亜玖亜! 足を引っ張るなって。転ぶから」
「もう! 私やるからいいよ」
結愛は洸を抱っこしながら、キッチンの方に移動する。お湯が沸いてないことに目を驚愕させた。急いで、瞬時に沸くポットに水をいれてスイッチを入れる。
「あー、もう。紙おむつも取り替えないと!!」
結愛は熟睡の中、起こされてイライラしていた。寝床では3人でテントごっこが始まっている。その様子を見て、さらにイライラしてしまう。手伝ってほしいと感じてしまった。洸の泣き声は家中に響き、父母の耳にも伝わっていた。
「ねえ、大丈夫?」
「……お母さん。助けてぇ」
「もう、仕方ないわねぇ」
「碧央くん。さすが、子供相手うまいねぇ」
その父の言葉に碧央は救われる。
「いえいえ、ただ遊んでいるだけです」
「ふざけてるだけだから!!」
イライラが倍増に覆いかぶさって言う結愛だった。きっとホルモンバランス崩れているんだろうとわかっていながら、碧央に八つ当たりする結愛だった。