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第62話  予想外な出来事

 朝の寒い時間は、吐く息が白かった。両手で息を集めて温かさを感じた。タイマーをつけ忘れていたストーブにスイッチを入れる。リビングのこたつで樹絵瑠と亜玖亜が喧嘩しながら、朝の子供番組をつけていた。毎朝のペースのはずだった。子育てに熱中する今、朝の時間はゆっくりで、朝ごはんも適当。ベビーベッドで寝かせていた洸も立って歩くようになり、ミルクを卒業して少しずつ楽になってきたかに思われた。それは1週間前のことだ。2人で協力で3人を育てようと誓った結婚式。強行突破して開催したことが原因で碧央の両親とはほぼ絶縁。金銭の援助はもちろん子供に関しての援助も全くしてもらえなかった。頼りになるのは、結愛の両親のみ。

 いつからだろう。この朝日家の歯車が狂い始めたのは。

 結婚式をした日から?

 もっともっと前のずっと前からだろうか。

 朝日碧央と石原結愛が出会ってしまったことだろうか。

 でも、過去に戻っても未来はきっと変わらない。

 流れに沿って生きている世の中だ。


 結愛はさかのぼって考えて絶望してしまう時間が多くなった。それでも、子供たちは日々成長をとげている。親が手をくわえなくても、歩くことができ、食べることができている。だんだんと親を頼らなくなるだろう。もう、自分自身が必要としなくなったときに涙があふれ出てくる。ここに存在していて本当にいいのだろうかと。


 いつ開けたかわからない窓からレースカーテンが風で靡いていた。干したはずのないタオルが風で揺れている。


 碧央が家を出て行ってから1週間が経っていた。結婚式を終えて3ヶ月。

 碧央の実家に連絡を怠ったせいか、毎朝の碧央のスマホに朝5時に電話が鳴り続けて、血相を変えていつもベランダでたばこを吸いながら電話をする碧央を見ていた。何か問題があったのか。結愛はどうするべきかわからなかった。3人の子供を世話しながら忙しくしていると碧央のことを集中してみる余裕がなかった。いてもいなくてもわからない透明人間の状態。手伝ってと声をかけて都合のよいロボット。恋愛要素まったくない。独身の頃が懐かしく感じる。考えるのは毎日のごはんのメニュー。好き嫌いの激しい子供たちのご飯作りで1日やり過ごすことが多い。洗濯や掃除ももちろん。だっこしなくて済むようになったが、誤飲を防ぐように小さな危険なものは置かないようにする。台所には通れないバリケード。喧嘩しないようにとおもちゃをたくさん用意するが、それでも喧嘩する2人。姉と兄の遊びに洸は眼中にない。わたわたと、あっちに行ったりこっちに行ったりの毎日だ。そうしている間にも「出かけてくる」と言って出て行った碧央は全然帰ってこなかった。もう一週間は経っている。


「洸、これは舐めちゃだめ。もう大きくなったんだから、テレビのリモコンくらい舐めちゃダメなのわかるでしょ!」


 溶けたチョコがべったりついていたせいかリモコンを触る洸に結愛は注意した。後ろでは亜玖亜と樹絵瑠がシマエナガのフィギュアを取り合いしていた。2個あるフィギュアでも向きが違うとかポーズが違うとか、色が違うでもめている。そんなのどっちでもいいだろうとため息が出る。


「ちーがーう。こっちの方がシマエナガが可愛いの」

「僕もそっちがいい!! 返して」

「やーだ!!」


 ぎゅっと引っ張った瞬間にシマエナガの頭がポンと抜けて玄関まで飛んで行った。


「あーーー、あたしのシマエナガ!!!」

「僕だってば!!」


 走って落ちたシマエナガを取りにいこうとすると、飛んで行った先の玄関の前で、帰ってきた碧央がシマエナガの頭を拾った。


「おいおい。俺が買ったガチャガチャを取り合うんじゃないよ」

「パパ!!」

「おかえりなさい、パパ!! シマエナガくれるって言ってたよ」

「あげた覚えはないんだけどなぁ。頭取るなよぉ、まったく」


 碧央はもうひとつのシマエナガの体に頭をくっつけた。亜玖亜と樹絵瑠は壊れたシマエナガが直って大喜びしていた。




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