ライーン会長は赤竜ゼフィロスに乗って空へと飛び去った。
去る前に、会長は世間を驚かせるいくつかの重大な発表を行った。
1.本日より、探索者協会公式サイトで、遺伝子誘導薬(改良型)2,000万本が無料で提供される。16歳以上であれば、公式サイトで申し込むことができる。承認されれば、各都道府県の探索者協会支部または北海道本部で薬剤を受け取り、その場で注射を受けることができる。
なお、協会の研究部門が何年にもわたる研究の末、致死率が70%に達していた遺伝子誘導薬が、改良型では35%にまで下がった。
2.本日より、全日本の365個のダンジョンがすべての探索者に無料で開放される。
3.本日より、探索者協会公式サイトで、協会の宝庫から各種リソースをオンラインで交換できる特設ページが開設され、登録した探索者はポイントを使って交換できる。
4.本日より、探索者協会は初めての「探索者学院」を設立し、ライーン会長が初代院長に就任する。
5.ウェイスグロ防衛戦に参加したすべての探索者は、貢献値に応じて、協会本部や各支部で戦役でモンスター素材を交換したり、相応の金銭に換算したりできる。
6.探索者協会の各部門は近日中に、前例のない大規模な募集を行う。待遇も手厚い。
7.探索者協会はY社およびT社と提携し、さまざまなダンジョンの配信を行い、市民にダンジョンの真実を知ってもらう予定。
8.探索者協会は三大探索者ギルドと提携し、「探索者連盟」を設立する。連盟のメンバーはリソースを共有し、情報を交換し、人材を補完し合う。
9.今回の探索家称号試験は30日間延期され、30日後には旭岳で第3試練が行われ、探索家の称号を得るための最終試練が決定される。
発表が終わると、会場はどよめきと興奮に包まれた。
スタジアムの中央舞台で、大島は少し考え込んだ後、隣に立つ氷原に向かって言った。
「会長、今回本気だな…」
大島よりも協会内部の事情をよく知っている氷原は、静かにうなずきながら答えた。「会長はずっとこの計画を練ってきたんだ。あんなに大量に遺伝子誘導薬を量産した時点で、こうなることは予想できた」
大島は少し眉をひそめて続けた。
「でも、致死率がもう少し下がればいいのにな…」
「それがもう研究部門の限界なんだ」
と氷原は言い、視線を少し外してから低い声で続けた。
「実は、まだ少し下げる余地はある。ただ、ある場所を攻略し、伝説級のモンスターの素材を手に入れる必要がある。それを達成するために、近いうちに戦闘部が動く予定なんだ。君にも参加してほしい」
大島はその言葉を聞くと、目を輝かせ、迷うことなく即答した。
「いいさ」
「詳細も聞かずに決めていいのか?」
大島はにやりと笑って答える。
「会長のように偉大じゃないけど、俺にも人類を守る責任があると思っているからな」
氷原は少し微笑み、うなずいた。
「探索家称号試験が終わった後、詳しく話すよ」
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スタジアムの観客席で
川谷は大きく伸びをして、仲間たちに声をかけた。
「あと30日も待たないといけないのか…。みんな、この間どうするつもり?」
最初に口を開いたのは、嬉しそうな顔をしている琴音だった。
「彩雲ちゃんはうちに泊まって数日休むことにしたから、私たちはとりあえず北海道に旅行に行こうと思ってる!時間が近くなったら旭岳に行って、それから登別温泉とか、美味しい夕張メロン、タラバガニ、ウニ…あ、そうだ!北海道のダンジョンにも行ってみたいな!」
琴音の一連の提案に、みんなも思わず顔を輝かせ、北海道の旅を想像してワクワクし始めた。
キュウを抱えていた神楽は、期待に満ちた目を輝かせ、少し恥ずかしそうに小声で言った。
「こ…琴音さま、私も一緒に行っていいんでしょうか…?」
琴音はすぐに神楽の手を取って、元気よく答えた。
「もちろん!零ちゃんも一緒に来てくれる?やったー!」
それを見た山崎も慌てて手を挙げて言った。
「俺も一緒に行く!」
三人の美少女たちが一斉に山崎を見つめ、少し気まずい空気が漂った。
「山崎くん、うちだと…えっと、ちょっと不便かも?」
山崎はその視線に圧倒され、顔を真っ赤にして、慌てて手を振りながら言った。「あ…あの、違うんっす!そういう意味じゃなくて!」
川谷はそんな山崎を見て、肩をポンと叩いて笑いながら言った。
「山崎くんが言いたいのは、この空いてる時間を使って、みんなで北海道で温泉旅行しようってことだよ!」
山崎はホッとした表情で川谷に感謝の気持ちを込めて頷きながら言った。
「そ…そうそう!それっす!」
その時、川谷は宮本に向かって、笑顔で尋ねた。
「宮本はどうする?」
「みんなで温泉旅行か…楽しそうだな!」宮本は嬉しそうに答えた。
温泉旅行の話が進むにつれて、神楽が抱える九尾も興奮した様子で尻尾を振りながら「く~」と鳴き、可愛らしいもふもふ頭を美少女たちの腕にすり寄せた。
(ご主人さまたちが言ってる「温泉」って、どんなものなんだろう。話の流れによるとたぶん人間同士の社交場のようなもの…なんか楽しそうだぞ!)
みんなは連絡先を交換し合い、宮本と琴音は大阪に住んでいることから、神楽、彩雲、山崎、川谷の4人も、琴音の誘いで大阪で数日遊ぶことになった。
その間、みんなはそれぞれ大阪の探索者協会支部に行き、貢献値を交換することに決まった。
そして、1週間後、空港で再集合する約束をした。
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大阪空港近くの駐車場
一人の小柄で金髪の上品な美少女が、貴族風の衣装を身にまとい、小さなキャリーバッグを引きながらマイバッハに乗り込んだ。
「アリス様、お先にホテルにチェックインされないのですか?」
運転手が丁寧に尋ねた。
アリス・ランコム、T社の現社長の一人娘で、18歳にしてGamma3級の強者に登り詰めた天才。
T社最強の美少女であり、異国の王室の血を引く、まさに「天の恵み」を受けた存在である。
「いいえ、直接この住所に向かってくださいまし。」
アリスはそう答えると、少しだけ微笑んでから続けた。
「遅くなれば、Y社の方々が私の計画を台無しにしてしまいそうですわ」
運転手は指示に従いながらも、少し好奇心を抱いて尋ねた。
「一体、どんな人物が、アリス様ご自身で招待する必要があるのでしょうか…」
アリスは顔を軽く撫でながら、口元に自信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「面白いおじさまですわ。ふふ…彼には断れぬような誘いをしてあげますわ」
その頃、絵里も全速力で宮本の家へ向かっていた。
スポーツカーの窓がわずかに開いており、風に揺れる絵里の髪が軽やかに舞っている。
(T社は一体、誰を送ってきたんだろう…。できるだけ早く宮本くんのとこに到着して、最悪の事態が起きる前に未然に防がなきゃ)