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第53話 女の戦い


絵里が宮本の家の前に到着したとき、目の前にいたのは、まるで貴族のような気品を漂わせる美少女が、家を不思議そうに見つめながら呟いている姿だった。


「おかしいですわ…ちょうどお会いできるタイミングだったはずなのに、どうして誰もいないのかしら…」


一目見ただけで、絵里はその人物の正体をすぐに見抜いた。

唇をわずかに開き、驚きの表情を浮かべながら心の中でつぶやく。

(ウ…ウソやろ!T社の令嬢が直接来るなんて…おかしくないか!? く…これはかなり手強い相手だな…。)


その時、アリスは絵里のスポーツカーに気づいたようで、口元にわずかな笑みを浮かべ、なんと自ら車の横に歩み寄り、窓ガラスを軽く叩きながら言った。

「あなたも宮本さまをお探しなんですわね?」


絵里はあっさりと車のドアを開けて降り、特徴的な偽りの笑顔を浮かべて答えた。

「お会いできて嬉しいです、アリス・ランコム様。T社社長の一人娘で、T社ダンジョン配信ランキング第3位、先天的な遺伝子解放者、そしてTOPギルドの副ギルド長」


絵里の一言で、アリスの美しい緑色の瞳が一瞬驚きに見開かれたが、すぐに口を尖らせて、不満げに言った。

「ずるいですわ。あなた、わたくしのことをそんなに知っているのに、私はあなたの名前すら知らないなんて…」


絵里は軽く口元を隠して笑いながら答えた。

「それは失礼しました。私はただの無名な一介の者、Y社の松本絵里と申します。それと、宮本次郎さんのY社でのマネージャーでもあります」


アリスは唇を噛みしめながら、少し考え込むように言った。

「確かに無名ですわね。お名前、聞いたこともないですわ」


絵里は少しも気にせず、プロとしてこうした言い争いにはすでに慣れているので、淡々と笑いながら言った。

「宮本くんを引き込もうとT社の令嬢がわざわざ足を運んでくるなんて、その本気、すごく伝わってきますね。はぁ、可哀想に…」

「はい?」

「あなたが無駄足を踏むことになるのが可哀想です。だって宮本くん、最初から私のものですから」



アリスは冷たく鼻を鳴らし、両腕を胸に組んで反論しようとしたその時、ちょうど近くに停まったタクシーから宮本が降りてきた。

川谷たちとの食事を終えたところだった。


「宮本くん!心配してたんだからね」

絵里は非常に自然に宮本の元に駆け寄り、慣れた様子で彼の腕に手を回して、ちょっとした叱責を込めた口調で言った。

「あなたのマネージャーとして、最近の配信活動についてちゃんと教えてくれないと。突然ウェイスグロ防衛戦に参加したりして、本当に心配したんだから」


宮本は余っている手で頭を掻きながら、熱烈に歓迎してくれる絵里を見て、また気分を害したように不機嫌な表情の知らない少女をちらっと見て、完全に状況が把握できていなかった。

「えっと…絵里さん、どうしてここに?」

「もちろん、あなたのためよ」

絵里は軽く笑いながら言った。

「ここには通りすがりの人もいるし、家の中で話そう」


その言葉が出た瞬間、アリスは完全に建前を崩され、氷のような冷たい眼差しで絵里を睨んだ。


次の瞬間、薄暗い光の下で、アリスの足元の影がまるで命を与えられたかのように素早く広がり、絵里の前に飛び込んできて衝突した。


(この…永遠の青春から距離を置かれたお方クソババア!少しお仕置きですわ!)

Gamma3級の実力を持つアリスは、その仙人スキル「影魅かげみ」を発動させた。


しかし、アリスは絵里を傷つけるつもりはなく、ただ絵里を宮本の側から弾き飛ばすだけのつもりだった。


宮本はその瞬間、当然黙って見ているわけにはいかず、影が絵里に突き進みそうなとき、すぐに一歩踏み出して絵里を後ろに引き寄せて守りながら、アリスの影魅を正面から受け止めた。


これに対し、アリスは逆に力を加減することなく、自分の影を全力で使って攻撃を続けた。

(このお方を守るつもりなら、ちょうどあなたの実力も試してみようじゃないですわ!)


宮本は避けることなく、そのまま地面から迫る影を胸で受け止めた。


ドン!


鈍い音が響き、宮本にはその攻撃がまったく効かなかったが、それによってアリスの闘志がさらに燃え上がった。


アリスの緑色の目が一瞬異なる色に変わり、次の瞬間、影は三つに分かれて、上・中・下から宮本を一斉に攻撃し始めた。


「面白い攻撃パターン。でも、これくらいじゃ足りないさ!」

宮本は微笑みながら応じ、片手で絵里を後ろに引き寄せると、動かずに立ち続けながら、もう片方の手で素早くパンチを放った。


ドン、ドン、ドン!


三発のパンチがほぼ同時に放たれ、正確に影の腰や腹部を打ち抜いた。


薄暗い光の中で、アリスが呼び出した三重の影は、宮本の一撃を受けて瞬時に跡形もなく消え去り、まるで最初から存在していなかったかのようだった。



アリスはその結果に怒ることはなく、むしろ興奮した表情を浮かべて拍手をしながら言った。

「宮本おじさま!ほんとうに、私が想像していた通り強いですわ!さすが黒竜を倒した者、すごいですわ!」


「俺のこと知ってるのか?」

宮本は拍手して褒める金髪美少女を見て、驚きの声を上げた。


「はい!まず自己紹介させてくださいね。私はT社から来たアリス・ランコム。今日は宮本さまにご挨拶に来たんですわ!」


T社の名前を聞いた途端、そして先ほどの影の攻撃で少し顔色を失った絵里の様子を見て、長年社会に揉まれてきた中年社畜の宮本は、二人の女性が突然自分の家に現れた理由をなんとなく察した。

「そうか、なら入って一緒にお茶でも飲もうか」



宮本はドアを開け、アリスと絵里という対立する美人二人を家に招き入れ、リビングに座らせた後、自分はキッチンへ向かい、お茶を淹れに行った。


リビングのテーブル前で、絵里は冷たい表情を浮かべながら淡々と言った。

「宮本くんはT社と契約するつもりはありません。無駄な努力はお辞めになって」


アリスは自信満々に首を高く掲げ、傲慢な口調で言った。

「それ、あなたが決めることじゃないですわ」


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