翌朝、宮本は二人と共に平野区の探索者協会支部に到着した。
キュウはとてもおとなしく、宮本の広い肩に寄りかかりながら、目を細めてうとうとと眠っていた。
昨夜の「置き去り事件」が相当堪えたようで、さらに主が作った、歯の隙間まで辛さが染み込むほどの激辛きつねうどんを食べたことで、全身の毛が逆立った。
寝てしまえばお腹は空かないだろうと思ってそのまま眠り込んだらしい。
突然、末期の病が治癒したことを知った宮本は、昨夜の徹夜の話し合いを経て、正式にY社とS級配信者契約を結んだ。
アリスも手ぶらで帰ることなく、宮本はこの異国の血を引く美少女と新たな協力関係を結んだ。
それは、TOPギルドの名誉理事としての役職だった。
探索者三大ギルドのひとつであるTOPは、規模では探索者協会に及ばないものの、独自の運営体制を持ち、非常に大きな影響力を誇っている。
TOPギルドの現ギルド長は、日本で数少ないEpsilon級のトップ強者であり、唯一の女性Epsilon強者でもある。
その夜、それぞれ成果を得た二人の女性は宮本の家に宿泊することになった。
本来ならば険悪な関係だった二人だが、利益の対立がなくなったからなのか、あるいは九尾のウルウルしたかわいらしい姿に心を奪われたのか、なんと一緒に(キュウも)同じ布団を共有し、あっという間に親友となった。
この驚くべき関係の変化に、翌朝早く起きた宮本は、キッチンで楽しげに朝食を作っている二人を見て、目を大きく見開き、心の中で深いため息をついた。
——女性というのは、本当に謎めいた存在だな、と。
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「宮本さま、あなたは今回のウェイスグロ防衛戦で貢献値1位ですわ。何を交換できるか、見てみません?」
アリスは好奇心満々で取引所を見渡し、続けて言った。
「もし交換価格が合わないようでしたら、直接素材を交換するほうがいいかもしれませんわ。TOPギルドには専用のオークションハウスがありまして、公式取引所よりも良い交換レートを提供していますの」
宮本はうなずき、二人を連れて取引所の後ろの方に向かった。
最も目立つ場所に、貢献値を交換する窓口を見つけた。
これは探索者協会が特別に設けた臨時の窓口で、数十人の探索者たちが番号を受け取り、列を作って順番を待っていた。
その時、一人の筋肉質な男が興奮した様子で自分のキャッシュカードを振りかざし、大声で叫んだ。
「一回の戦いで得られた報酬が過去一年間のダンジョン探索で得た報酬を超えるとはな!ハハハっ、ついに揃ったぞ!待ちに待ったバトルアックスを交換できるぜ!」
男が去った後、やや痩せた中年男性も交換を終え、乾ききった、まるで凍りついたような顔に薄い笑みを浮かべながら、大切そうにキャッシュカードを財布にしまい、静かに呟いた。
「一回で探索家称号試験の申し込み代まで稼いだとはな…」
と、ほとんどすべての探索者が貢献値で交換した報酬は予想を超えるものであった。
キョロキョロしながら周囲を見回していた宮本の横に、タイミングよく絵里が声をかけた。
「宮本くん、あなたの番よ」
宮本は「おう!」と言って立ち上がり、窓口へと歩き出した。許可を得たアリスと絵里も、彼に付き添って一緒に向かった。
窓口で宮本を迎えたのは、ピンクの制服を着た陽気な少女だった。
「親愛なる探索者様、探索許可証と戦闘データ記録装置をご提示ください」
受付の女性は宮本の探索者許可証を機械でスキャンし、記録装置のデータも読み取った後、思わず驚きの表情を浮かべ、再度慎重にスキャンし直した。
データに間違いがないことを確認すると、満面の笑顔で言った。
「宮本次郎様、あなたの貢献値は10万を超えておりますので、どうぞVIP取引所にて交換を行ってください」
そう言いながら、彼女はなんと宮本の探索者許可証をその場で切り裂いてしまった。
これに宮本は思わず驚きの表情を見せたが、少女が次に差し出したのは、全体が黒く、金色の縁取りと精緻な模様が施された豪華そうなカードだった。
宮本もようやく彼女の行動の意味を理解した。
「ウェイスグロ防衛戦において貢献値が10万を超えた探索者には、特別に『探索許可証――ブラック』が授与されます。ブラックカードに関連する特典については、探索者協会公式サイトで詳しく確認できます」
少女から渡されたブラックカードを受け取った宮本は軽く頷き、VIPルームの場所を尋ね、そのままアリスと絵里を連れてその場を離れた。
取引所を出るまでもなく、宮本の後ろではさまざまな議論が交わされていた。
宮本の手にあるブラックカードは、探索者にとって極めて高い栄誉と価値を持つ宝物であり、その話題で盛り上がっていた。
「えっ、あれブラックカードじゃない!?」
ある探索者が、自分の67000の貢献値を悔しげに見つめてため息をついた。「10万貢献値か…あの時もっと頑張っていれば、手に入れられたかもしれないのに、惜しい…」
「ブラックカードって探索者協会が設立されて以来、発行されたのは一万枚にも満たないらしいよ」
「あのおっさんそんなに強いか?見た目は普通っぽいけど」
「ブラックカードは本物の実力者だけが持つ証だぞ…うらやましい!」
「10万以上の貢献値か…俺にはまだ遠いな」
「今回の発行条件はここ最近で一番低いらしいけど、それでも私には全然無理だわ…」
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VIP取引所に向かう途中、アリスは宮本にブラックカードの発行条件とその特典について説明を始めた。
1.ブラックカードの発行最優先基準は、探索者協会が人類世界への卓越した貢献を認めた者。
2.ブラックカード所持者は、素材取引において免税特権を有する。
3.ブラックカード所持者は、探索者協会の毎年の大オークション会に参加する権利を有する。
4.ブラックカード所持者は、日本国内すべてのダンジョンに無料で入場できる。
5.ブラックカード所持者は、探索者協会本部および各支部でVIP待遇を享受できる。専任対応、優先処理、高級素材交換、探索書庫無制限利用、武器や装備のカスタマイズサービス、モンスターペットの無料預かりなど。
6.ブラックカード所持者は、探索者協会の四大部門に審査なしで加入でき、公式な高額福利厚生を享受できる。
7.ブラックカード所持者は、探索者協会と提携している銀行で最大20億円の無利息ローンを受けることができる。
アリスは説明を終え、手に持っていたブラックカードを宮本に見せた。
「宮本さま、おそろいですわ!」
「さすがアリス!すごいな」と、宮本は惜しみなく褒めた。
その横で、絵里は興味深そうに尋ねた。
「アリス、あなたのブラックカードはどうやって手に入れたの?」
「新しいモンスターを発見して、モンスター図鑑の空白を埋めたのですわ」
アリスはにっこりと笑いながら答えた。
「モンスター図鑑233ページに載っているVIII級モンスター『炎獄グラディエーター』、それを最初に発見して記録したのは私ですわ!」
しばらく三人で雑談をしているうちに、VIPルームに到着した。