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第58話 可哀想なクモドラガス


花山烈央は、ルートギルドの最年少副ギルド長で、噂によれば、すでにDelta級の実力に迫るほどの実力者だという。


半年前、ルートギルドとTOPギルドは表向きには共同探索を謳っていたが、実際には両ギルドがそれぞれの目的を持ち、資源を巡って激しく争っていた。

その中で、最も重要な資源となったのが、現在花山の後ろにいる「クモドラガス」だった。


当初、両ギルドが得た情報は、「シュタノーム内でVIII級のクモドラガスの幼獣が発見された」というものだった。


ダンジョン探索の初期段階では、両ギルドは協力して攻略を進めていたが、クモドラガスの幼獣が姿を現すと、その争いは一気に激化した。


結果は明らかだった。クモドラガスの幼獣は最終的に花山が手に入れ、彼のモンスターペットとなった。


VIII級のモンスターペット、特にクモドラガスのように、IX級の「クモドラガスレギウス」へと進化する可能性を秘めた存在の価値は計り知れない。


だが、花山がアリスに敵意を抱く理由は、単なるダンジョン攻略中の争いだけではなかった。

実際のところ、花山がアリスに求愛し、拒絶されたことが最も大きな原因だった。


莫大な自信を持ち、すべての女性を自分のハーレムに迎えようとしていた花山にとって、何度も断られることは屈辱以外の何物でもなかった。


そのため、現在のようにアリスをわざと挑発するのも、その復讐心から来ているのであった。


花山はニヤリと笑いながら、威風堂々としたクモドラガスの大きな頭を揉み、アリスに向かって言った。


「堂々たるアリスお嬢様、結局、強いモンスターペットを捕まえる実力がないから、ここで買うつもりですか? まあ、俺たちはシュタノームを一緒に攻略してきた仲間だし?親切心で忠告してあげるけど、ここではね、クモドラガスのような強いモンスターペットは買えないよ」


花山の煽りに、アリスは顔を真っ赤にしながらも、さらに苛立ちが募った。


その時、花山はアリスが抱えているキュウに目を留め、軽蔑的に言った。

「あら、こちらは…かわいい何か、ですね。残念ですが、可愛さだけじゃクモドラガスの一口にも足りませんよ」


花山の言葉に不快感を覚えたアリスの顔は一層真っ赤になり、宮本もそれを見て思わず怒りを感じた。


(なんだこいつ、無礼すぎる…。VIII級モンスターって、一撃で倒せるレベルじゃないのか? なんでそんなに自慢する意味がわからん)

(しかも、わざわざ道を塞いで、俺の仲間を気分悪くさせるだけでなく、うちのキュウまでバカにするとか…)


そう思った宮本は、静かに一歩前に出て、冷徹に花山と目を合わせながら言った。

「ここを離れてくれないか」


花山は最初、宮本に気を取られていなかったが、目が合うと、少し考え込むような表情を浮かべ、口元に冷笑を浮かべた。

「君は…あのウェイスグロで大活躍したおっさんか。まあ、あの戦いに俺も参加していたら、君なんか出番もなくなっただろうけどね」


宮本は肩をすくめ、冷徹な眼差しを花山に向けながら平静に答えた。

「君がどう思おうと構わないが、俺もアリスも、君とは話したくない。だから、最後に忠告しておく。ここを離れてくれ」


花山は軽く笑いながら、細長い目に軽蔑の色を浮かべた。

「ふふ、チキンが」

その言葉と同時に、花山の隣にいるクモドラガスが主の意図を汲み取ったのか、突然口を大きく開け、恐ろしい咆哮を上げた。


紫色の瞳が獲物を狙うように光り、まるで今すぐにでも宮本を飲み込んでしまいそうな勢いだ。

その咆哮はホール全体に響き渡り、数百匹のモンスターペットが震え上がり、低ランクのモンスターが恐怖のあまり失禁した者もいた。


「はは、ごめんごめん、うちのクモドラガスはただ欠伸をしただけなのに、まさかみんなに迷惑をかけたようだとは」

花山は悪びれる様子もなく、軽く手を振りながら、まるで何事もなかったかのように続けた。


その傲慢な態度と、クモドラガスの圧倒的な威圧感はホール内の他の人々の怒りを買ったが、VIII級モンスターの強大な威圧力の前に、誰も声を上げることができなかった。


一方、クモドラガスの咆哮を直接受けた宮本には全く影響はなかった。

何しろ、彼は黒竜の吐息を真正面から受けても平然としているような者だから。


(キュウ、あの猫がここで威張ってるのを見ていられるか?)


宮本は本当に怒っていた。


宮本と九尾は魂のリンクで結ばれており、彼が何も言わなくても、九尾はその気持ちを瞬時に感じ取った。

胸に抱かれてうとうとしていた九尾は、心地よく伸びをし、眠い目をこすりながら地面に降り立った。


九尾はまだ真の姿を現していなかったため、その大きさはクモドラガスの爪程度に過ぎない。

しかし、地面に降りた瞬間、凶暴な態度を取っていたクモドラガスが急に縮こまった。


(くそ猫が、我の夢を邪魔しやがって!)

(うるさいな、何吠えてるんだ、ご主人さまが怒っちゃったじゃないか…)


九尾は姿を現さず、クモドラガスの周りを優雅に歩き回った。

そのレベル差により、さっきまで威張っていたクモドラガスは、体が微かに震え始めた。


その光景を目の当たりにした花山は驚き、何が起こったのか全く理解できない様子で目を丸くした。


シュッ


九尾は軽く跳ね、ホールの近くにいた数十人の驚愕の目の前で、クモドラガスの頭にピタリと着地した。

そして、九尾は欠伸をしながら、その頭を非常に傲慢に踏みつけた。


「あ…ありえん! たかが雑魚ペットが…!」


花山は顔を真っ赤にして、思わず口から命令を絞り出した。

「クモ! あのキツネを引き裂け!」


だが返事をしたのは、クモドラガスの怯えた「うぅ……」という声だけだった。

それは、骨の底から服従と弱さを示すような音だった。。


その時、クモドラガスの頭に乗っていた九尾は、爪でその額にある紫色の毛を引っ張った。


シャキッ


一束の毛が引き抜かれ、九尾が爪を離した瞬間、それは空中に舞い、ふわりと地面に落ちた。

(これを、我の主を怒らせた代償としていただくぞ!)


その時、アリスは目を輝かせ、思わず九尾を抱きしめたくなった。まるで、最高のプレゼントでももらったかのように。


その時、花山は呆然とし、言葉を失った。のど元が動いているが、何も発することができない。彼は、何が起こったのか理解できなかった。


その時、宮本はもう何も気にせず、絵里とアリスを連れて花山の側を通り過ぎた。


「はいはい、離れてくれないなら、こっちから回り道すればいいだろ。キュウ、もう遊ばないで、行くよ」


九尾は主の命令に従い、最後にもう一度クモドラガスの頭を重く踏みつけ、喜びに満ちたアリスに飛び込んだ。

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