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第61話 神兵のために


休憩室の中、宮本が秘密保持契約を締結した後、藤堂山はその態度を一変させ、驚愕の表情で床に置かれた2本の巨大なドラゴンの牙を凝視していた。


雪のように白く、刃のように鋭く、雷気を纏っているその牙は、見る者を圧倒する威圧感を放っていた。


藤堂は、その場から動けなくなり、夢中になったように竜牙を手で撫でながら、興奮した声で呟いた。

「こりゃあ、なんて素晴らしい宝物じゃ…!」


その同時に、藤堂の手に青い炎が立ち上り、竜牙に向けてしばらく熱を加えた。

その炎は青から紫、さらに淡い金色へと変化し、最終的に暗い金色で安定した。


これは藤堂が覚醒した「錬金火」と呼ばれる仙人スキルで、鍛冶師にとって大きな力をもたらす技だ。

この炎は藤堂が長年かけて精錬してきたものであり、炎の色の変化を通じて素材の品質を鑑定することができる能力である。


「こいつは、ただの伝説級素材じゃない…特殊な力を持つ伝説級モンスターから取れたものじゃ!」


藤堂は目を輝かせながら、ようやく竜牙から顔を上げ、宮本を見つめて真剣に尋ねた。

「この竜牙で、どんな装備を作りたいのか?」


初対面では無愛想だった藤堂だったが、今はその率直な質問が、宮本にとって話を進めやすいものとなっていた。

(出所を詮索しないとは…これがマスター級鍛冶師のプロ意識ってやつだな)


宮本はこの嵐の雷竜の犬歯で作りたいものをすでに決めていた。

「藤堂先生、この竜牙で一対の武器を作ってほしいんです」


「一対?」藤堂は少し驚いて問い返した。双刀流を使う探索者は珍しいからだ。


「はい、一対」

宮本は一瞬考え込み、さらに付け加えた。

「ただ、どんな形にするのがいいか、アイデアをいただけると助かります」


藤堂は立ち上がり、頭を掻きながら少し残念そうに答えた。

「この竜牙には風と雷の力が宿っておる。一対にするなら、一本を風刃、もう一本を雷刃にし、風と雷を組み合わせるのが理想じゃ。しかし…」


藤堂は言葉を区切り、深いため息をついて続けた。


「惜しいことに、最後の仕上げに必要な素材、風雷の力を持つ伝説級モンスターの血と肉が足りん。それがなければ、不完全なものにしかならんし、神兵には到底及ばない」


「あ、それならありますよ」


宮本は、これから作る武器を最高の状態にしたいと思っていたため、即座に空間リングから嵐の雷竜の血と肉を一部取り出し、テーブルに置いた。

「これで足ります?」


藤堂はその素材を見るなり、目を見開き、興奮した声で言った。

「なんて濃密な風雷の力!十分じゃ、これで完璧な一対を作れる!…1か月くれれば、この素材で伝説級武器を作ってやる。それどころか、神兵しんぺいランキングに載る可能性すらあるかもしれん!」


(老いぼれのわしはまだ神兵を作り出せたことがない。もし今回成功すれば、わしの長年の夢、神級鍛冶師への道が開ける…!)


「神兵」とは、伝説級をも超える兵器のことで、「神話兵器」の略称だ。

そして、この「神兵ランキング」は、世界中の探索者協会によって設立された。

ダンジョンが現れてからの30年間、このランキングに名を連ねた武器は、世界全体でも数十件に過ぎない。それほど稀少な存在だ。

日本探索者協会だけで見れば、その数はさらに限られ、片手で数えられるほどだろう。


「そうじゃ、帰る前に鍛造費用を払うのを忘れんでくれ。人工費は免除する。お主が持ってきた素材が貴重すぎて、わし自身の技術向上にも大いに役立つからの。ただし、補助材料費として先に120億を前払いしてもらうぞ。差額が出た場合は返金するし、最終的な費用明細は納品時に渡す」


この言葉を聞いた瞬間、宮本は目を丸くし、信じられないという表情で言った。

「藤堂大先生…120億って…鍛造の補助材料だけでそんなに…!?」


藤堂は軽く肩をすくめて言った。

「これでもブラックカード所有者向けの割引価格じゃ」


宮本は思わず顔をしかめた。明らかに胃が痛くなるような金額だ。

それを察したのか、藤堂はさらに説明を加えた。


「全て伝説級の素材を使うんじゃ。それに、今回作るのは一本じゃない。二本の武器だろう?そりゃ費用も跳ね上がるわい。だがな、小僧、この投資はケチるべきじゃないぞ。もし神兵として完成すれば、その価値は千億を超える可能性もあるんじゃ。それに正直な話、わしがどうしてもこの武器を作りたい気分だったからこそ、引き受けたんだ。それがなけりゃ、こんな赤字覚悟の取引なんてパスに決まっとる」


そう言いながらも、藤堂は内心で冷や汗をかいていた。

(小僧…まさか持ってないんじゃないよな…?いや、わしが立て替えることもできなくはないが、今の手持ちはせいぜい数十億…。神級鍛冶師としての挑戦が、こんな金銭問題で潰れるなんて絶対嫌じゃ…)



10分後、宮本は銀行のオンラインサービスを使って、ブラックカードを担保に32億円の無利息ローンをなんとか組み、120億円を工面した。

宮本は残った数千万円の残高を確認しながら、自分を慰めるように言った。

「…少なくとも、衣食に困ることはないか…」


(…なんか勢いで12億の借金を背負っちまったけどさ…)

(俺、ついさっき百億稼いだ人間なんだけどーーー!?!?)

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