洞爺湖近くの趣のある温泉ホテルで、アリスの手配により、宮本一行は無事にチェックインを終えた。
温泉で体と心がリラックスした後、みんなは普段着に着替え、食事と散策を楽しむために外に出た。
すでに夜も深く、賑やかな屋台街に足を踏み入れると、宮本、川谷、山崎の三人はあちこちを見回しながら、何かを探していた。
「山崎、零ちゃんが一番ほしいものって分かるか?」
川谷が問いかけると、山崎は首をかしげながら答えた。
「零ちゃんみたいな女の子のほしいものか…。全然わかんないっす!」
川谷は軽く山崎を睨みながら、真剣に分析を始めた。
「零ちゃんは千年の歴史を誇る陰陽師の家系出身だから、普通の女の子が好きなものとは違うはずだ。で、君、ここに来た理由わかるか?」
山崎が辺りを見渡すと、川谷は歩きながら続けた。
「この屋台は普通の屋台じゃないんだ!洞爺湖の近くにある特殊なダンジョンの影響で、ここで売られているものはそのダンジョンの特産物ばかりなんだ。零ちゃんの性格からすると、きっとこういう“特産物”が気に入るだろうなと思って」
川谷の分析に興味を持った宮本が、笑いながら尋ねた。
「そのダンジョン、どういう風に特殊なんだ?」
川谷は満足げに頷き、話を続けた。
「『七星の霊魂珠』って、聞いたことがあるか?」
「七星の霊魂珠…!」
宮本は少し驚き、反応した。
まだ探索者としては新米だったが、以前の社畜時代にダンジョンについて強い関心を持っていたため、心霊の聖物とも呼ばれるその宝物については知っていた。
「それを持っているだけで、心霊魔力が大幅に増加すると言われているんだ。しかも、この宝物はVI級モンスター仮面ローブからしか手に入らない、非常に貴重なもの!」
「仮面ローブか…」
宮本は少し考えてから続けた。
「確か、仮面ローブを倒してその素材を手に入れる確率は千分の一だとか。しかも、仮面ローブは洞爺湖のダンジョンにしか出現しない上に、数が少なくて隠れ上手だから、倒すのがものすごく難しい。だから七星の霊魂珠は高価で価値も高いんだよな」
川谷はうなずきながら、続けた。
「その通り。心霊魔力を強化する宝物は魔法使いや召喚師、心霊魔力を依存するタイプの探索者にとって実力を飛躍的に引き上げてくれる非常に貴重なものだから、価値は計り知れない」
宮本は少し眉をひそめて言った。
「でも、仮にこの屋台で七星の霊魂珠を見つけても、買う余裕なんてないだろうな…。確か、前回の探索者協会の大オークションで、七星の霊魂珠は数百億で落札されてたはずだ…」
山崎はその金額に驚き、顔を赤らめて少し困った様子で言った。
「俺、零ちゃんのためなら何でもするつもりだけど…今の俺の貯金は3億ちょっとで…それもウェイスグロ防衛戦でなんとか手に入れた額なんすよね…」
川谷は山崎の肩を軽く叩き、笑いながら言った。
「心配するなって山崎!七星の霊魂珠は買わなくても大丈夫。俺たちが探しているのはそれの下位バージョン、三星の霊魂珠だ。それも仮面ローブから出る素材で、七星の霊魂珠ほどの力はないけど、零ちゃんには十分役立つ宝物になるはず!」
山崎はほっとした様子で息をつき、明るく笑って言った。
「よかったっす!」
川谷はさらに続けた。
「ただし、三星の霊魂珠のお値段も億単位だぞ」
「問題ないっす!」
山崎は即座に反応し、元気よく言った。
「零ちゃんのためなら、何でもやりますから!」
宮本は横で苦笑しながら、つぶやいた。
「山崎って意外と純情な奴だな」
その間、賑やかな屋台の中で、きちんとした着物を着た中年の美しい女性が宮本たち三人の会話を聞いていたようで、明らかに彼らの話の内容に興味を持っている様子だった。
(ふふ、また霊魂珠を買おうとしてるバカに出会っちゃった。成人男性の肉体は子供や少女ほどじゃないけど、こんなバカに会うのも久しぶりだし、まぁいっか)
(それにしても、王から命じられて人間界に潜伏する仕事を引き受けたのは、間違いなく正解だったな!)
(さて、そろそろお腹がすいてきたし!この三人、だ~れ~に~し~よ~う~か~な)
そう思いながら、女性は川谷と偶然ぶつかるふりをし、足をひねって地面に倒れ込むと、眉をひそめながら足首を揉んだ。
そして彼女は顔を上げ、川谷を見つめながら言った。
「ご…ごめんなさい」
その一言で、川谷は少し照れてしまった。なぜなら、目の前の美人は完全に川谷タイプだったからだ。
慌てて手を差し伸べた川谷が言った。
「い、いえ!僕の方こそ!足、大丈夫ですか?」
女性は川谷の手を借りて立ち上がると、ふわりと柔らかい体を寄せかけてきた。
その瞬間、先ほど山崎の前で恋愛の達人のように振る舞っていた川谷が、耳を少し赤くし、表情に楽しさと困惑が入り混じった微妙な感情を浮かべているのが見て取れた。
「こんな状態じゃ、歩けないと思いますよ」川谷は女性の香りにふっと鼻を感じながら、冷静を装って言った。
その横で、宮本は山崎を引っ張りながら、小声で笑いながら言った。
「山崎、よく見ておけよ。川谷が今どうやって女性の心をつかむか実演してくれてるぞ」
数分後。
「川谷さん、あの…重くないですか?」川谷の背中に横たわった美人は、川谷の首を抱きかかえるようにして、恥ずかしそうにそう言った。
川谷は大声で笑いながら言った。
「そんなことないですよ、静香さん!僕がうっかりぶつけてしまったんだから、ちゃんと最後まで責任を取らないと!」
少し離れた場所から、宮本と山崎は川谷に向かって、笑顔で親指を立てた。
(さすが川谷、うまくいったな!)
(か…川谷パイセン!!パイセンの教えを受けた俺も、零ちゃんに告白成功するはず!)
川谷は宮本と山崎の賛辞を受けながら、わざと大きな声で言った。
「僕は静香さんを家まで送ってから、また後で合流する!君たちは先に適当にぶらぶらしててくれ!」